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2017年10月5日
急がれるデジタルへの変革、日本製造業
知見不足・現場力衰弱による巨額損失、三菱重工
日本経済は現在、好調であり企業収益は拡大し有効求人倍率もバブル期を凌ぐほど高く、家計心理も改善している。資源の少ない日本が「失われた20年」を経てなお世界3位の経済大国でおられるのは、国民の勤勉さにあることは間違いない。だが、その原動力が低生産性・低賃金労働の非正規雇用労働者に依拠するところに問題がある。労働者の4割が非正規雇用労働者だ。日本の1人当りGDP(国内総生産)は38,917ドルで、世界22位と低迷。20年前の1996年は1人当りGDP・38,453ドル、世界3位であったことからすれば、日本経済の低迷ぶりに改めて驚かざるを得ない。1人当りGDPは20年前の水準だ。また、1時間当たり労働生産性はOECD加盟35ヵ国中20位で、日本の生産性の低さが際立つ。

ドイツのように社会の中に職業訓練制度が定着していない日本では長期的な企業内教育で技術やスキルを磨き上げるのだが、短期の非正規雇用労働者に適用されない。1992年のバブル崩壊による経営危機を乗り切るため、どの企業も競って経営者は過大債務・過大設備・過大雇用の3重苦の削減に走った。経済の変化に対応するリストラは当たり前だが、経営立直し後も直近に至るまで、開発投資や設備投資はおろか、高付加価値の創出に欠かせない正規雇用労働者の採用を手控え、低コストの非正規雇用労働者の採用に集中した。

そして、どの経営者も目先の稼ぎに努め、危機に備えて稼いだカネを溜め込んだ。それは家庭なら立派であっても、企業は違う。競争に勝つために開発投資や設備投資、そして何より企業の付加価値創出を担う人材投資が不可欠だ。人材と云えば開発や設計などの技術者を思い浮かべるが、忘れてはならないのは製造現場を支える人材だ。日本のモノづくりを世界最高レベルに成し得たのは、設計と製造現場の摺合わせ技術だ。その現場は、2010年から始まった団塊の世代の熟練作業者の65歳年金受給資格取得に伴う大量引退で現場力が衰えた。非正規雇用労働者のスキルレベルではどうにもならない。モノづくり衰退の所以だ。

戦後日本の高度経済を牽引した巨像群が、足元から揺らぎ出しモノづくりの底が抜け、損失を計上する事態になった。「三菱は国家なり」、三菱重工は云わずと知れた岩崎弥太郎が政商として国家の発展に深く関わり、防衛や基幹産業向けの大型製品で日本経済を支えた重厚長大製品の巨大企業だ。その三菱重工は、客船世界最大手の米カーニバル傘下の独企業から豪華客船2隻を1000億円で受注したが、その2倍以上の2500億円の赤字を出した。

理由は2つある。1つは豪華客船の高級ホテル建設の様なノウハウがなかったこと。そのため欧州から職人を大量に連れて来ざるを得ず、多額のコストが膨大に膨れ上がった。2つは、強靭な現場力が消えたことだ。設計が現場力との摺合わせが出来ず、設計の修正が相次いだ。そして安全管理の低下が失火を招来し、更に導入した大量の外国人作業者を的確に管理できず、無駄なコストを流出した。また、社運を賭けた国産ジェット旅客機「MRJ」は5回目の納期延期となり、知見不足を補うために海外技術者を大量に雇い入れ、中核業務に配置し権限を委譲する、とした。このコストは膨大となろう。本来なら、豪華客船がもたらす高付加価値と同様に社内に取り込むべき高付加価値部分をノウハウが無き故に社外に流出させたのだ。IHIや川崎重工業も造船事業をブラジルで展開したが、現場力が欠如し設計マニュアルだけでは狙った製品が出来ず、多額の損失を招いた。

いずれも企業の成長に不可欠な開発投資と現場力維持向上を20年の長きに亘って怠ってきたのが原因だ。目先の利益を追求するため、人材投資の必要性に目をやらず、ひたすら低コストの非正規雇用労働者に依存する安易な経営のツケが、今、廻ってきたと云うわけだ。

しかるに現下はその非正規雇用労働市場が逼迫を極め、人手不足がこれまでになく深刻になった。俄かに、新卒者の取り合いが始まり正規雇用労働者の採用が増え非正規雇用労働者の時給が上昇した。今後急速に進行する少子高齢化による人手不足は人件費の高騰を招かざるを得ない。企業がこの動きに対応するには時間当り労働生産性を抜本的に挙げるしかない。それにはIT技術を駆使してモノづくりのデジタル化を急がなくてはならない。そして設計システムと製造システムを基幹系に結合し如何なる要求仕様に対しても機敏かつ柔軟に対応するソフトウェアを構築することだ。それなしに日本の製造業の21世紀はない。

現在、世界は第4次産業革命の時代。独シーメンス社は、政府主導の「インダスリー4.0」の中核的な役割を担い、従来の製造業の概念から脱皮し、モノづくりのノウハウにソフトを融合したデジタル製造企業への転換を急いでいる。「アベノミクス景気、イザナミ超えか」と囃すが、日本製造業が今、存亡の淵に立たされていることを見落としてはならない。
以上

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