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2017年4月26日
安倍政権、米抜きTPP転換。共同声明から次々消える「反保護主義」
政府は4月20日、環太平洋連携協定(TPP)に関し、離脱表明をしていた米国以外の11ヵ国で発効させることを視野に、各国との調整を本格化する方針を決定した。5月下旬にベトナム・ハノイで開催のアジア太平洋経済協力会議(APEC)にあわせて開くTPP参加国の閣僚会合で、本格的な議論に着手すると発表した。これまで安倍政権は、米国抜きのTPPは意味がないとするスタンスをとり、米国のTPP離脱の翻意を求めていたが急遽、米国抜きのTPPへと舵を切った。何ゆえ、か。

チリ中部ビニャデルマルでチリが主催国となり3月14日、チリ、メキシコ、ペルー、コロンビアの4ヵ国による「太平洋同盟(ラテンアメリカの経済統合を目指す)」の閣僚会議を開催し、その翌日、米国抜きの11ヵ国加盟国によるTPP閣僚会議を開き、TPPの経済的・戦略的意義並びに参加国間の意思疎通の重要性を確認した。そして日本に驚きが走った。その後に開かれた「ハイレベル対話」に何故か、中国を招聘していたのだ。中国は、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)におけるルール作りで主導権を握ったTPPに対抗して東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を主導する、TPP側からすれば敵対する立場だ。

TPPは、関税撤廃だけでなく環境保護まで含めた広範囲の活動について高水準の自由化と域内の共通基盤となるルールを作ったところに意義があり、21世紀の国際基準となり得る協定である。協定には、知的財産権の保護や国有企業優先の制限・廃止、投資の自由化が謳われ、模造品生産が横行し、国有企業のウエイトが高い中国は加入できない仕組みだ。何はともあれ、チリやペルーには米国に代わる経済大国の加入を実現させたい思惑がある。また、トランプ政権と軋轢を生じているオーストラリアに中国が秋波を送っている事実もある。

更に、米国市場向けの輸出拡大を期待するベトナムやマレーシアは米国抜き11ヵ国TPPに消極的であり、カナダやメキシコは米国との北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を優先的に取り組まざるを得ない状況にある。

このまま参加国の足並みが乱れる状況を看過すれば、TPPは崩壊しかねない。4月18日、東京で行われた「日米経済対話」で、麻生副総理が「アジア太平洋において地域の貿易ルール作りを日米主導でやることが大事だ」と多国間の枠組みを強調しTPPの意義を説明したが、ペンス副大統領は「2国間の交渉が米国にとって国益になる。米国が離脱したTPPは過去のもの」と断言し、日本との間で2国間の貿易協定を目指す姿勢を鮮明にした。

此処に、安倍政権はTPPについて米国抜きで早期発効を目指す方向に転換せざるを得なかった。ただ、米国の神経を逆なでしないか、を懸念する向きもあったが、2月10日の日米首脳共同声明で、「日米2国間の枠組みの議論を行うこと」と「日本が既存のイニシアティブを基礎として地域レベルの進展を引き続き推進すること」が併記されたことに依拠した。

2国間貿易交渉と云えば、1980年代から90年代前半にかけ、日米間で貿易摩擦が燃え盛ったのを思い返される。自動車、半導体、建設、牛肉、オレンジ、電気通信,コメなど多くの分野に火がついた。米国の貿易赤字の3分の2が対日本であった年もあり、ジャパン・パッシングは政治的な要請だった。スーパー301条(不公正貿易国に対する対抗措置強化条項)が発令され、まさに貿易戦争であった。しかし、不均衡はマクロ経済要因によって生じるもので、米国が指摘する不公正貿易慣行を直せば解決するものではない。最終目標の日米貿易不均衡の解消に繋がったのか、と云えば、答えは「NO!」であった。

そもそもトランプ政権が目指すアメリカ・ファーストの2国間交渉はゼロサム・ゲームであり、本来の貿易が求めるプラスサム・ゲームでない。だが、保護主義的な政策を掲げ貿易赤字の解消を目指す米トランプ政権の意向を忖度し、これまで常に明記してきた「反保護主義」の記述がない国際会議の声明が相次ぐようになった。3月にドイツで開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の共同声明に引き続き、4月22日に米ワシントンで開かれた国際通貨基金(IMF)の国際通貨金融委員会(IMFC)の共同声明でも、「反保護主義」の文言は消えていた。このままでは世界経済は縮小・低迷しかねない。

米議会や専門家の間で米国のTPP離脱で中国がアジア太平洋の貿易秩序を主導するのを阻止するため、日本が米国に代わってTPP発効の推進を求める声もある。日本が11ヵ国TPPの発効を推進することはもとより、あわせてトランプ政権にTPPの経済的メリットや戦略的意義を理解させTPP離脱の翻意を執拗に促すことが肝要だ。「日米経済対話」は、一方的に米国の存念を聞く場ではない。2国間交渉は堂々と筋の通った主張をするチャンスだ。
以上

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