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2017年1月10日
貧困と格差を生んだ金融業依存経済。
保護貿易と懲りないマネーゲーム、トランプ次期政権
1月20日、第45代米国大統領にドナルド・トランプ氏が就任する。わが国では、昨年11月の大統領選におけるトランプ氏のまさかの勝利に多くの識者は悲観論一色に染まり、東京市場は一気に大幅なる株安・ドル安に陥ったが、ニューヨーク市場はトランプ氏の大減税と大規模なる財政投資を買い材料に株高・ドル高を急伸させた。直ちに東京市場はニューヨーク市場を追従し翌日すぐに、株高ドル高が急伸し、市場参加者は悲観から一転して超楽観論に転じた。選挙勝利後も、大衆の受けを狙ってやたらと喚いているが、トランプ次期大統領の良いところを評価しよう、との空気が漂う。

選挙の勝因は、米国社会に広がった貧困や格差にあえぐ白人労働者階層の怒りを巧みに煽動したことにある。「生活難の原因は不法移民に仕事を奪われたからだ」、「工場が次々と海外移転するからだ」と煽り立て、低所得白人労働者の雇用増を創出するため、「アメリカ第一主義」を掲げ、メキシコとの国境に高い壁を築き、輸入には高い関税をかける、と叫ぶ。トランプ氏は昨年12月、米空調大手キャリアにエアコン工場をメキシコに移転する計画を撤回させ、米アップル社にiPhoneの国内生産比率を上げるように説教し、米フォード・モーターに高級車「リンカーン」のSUVの生産工場を米国から移転しないよう指導した。無視すれば米国輸入の際、35%の高い関税をかけると恫喝する。そして、ついに1月5日、日本のトヨタに対して、メキシコで生産したカローラを米国で販売するならば35%の関税をかける、と警告した。

つまりトランプ氏は、米国企業がコストの低い海外に生産拠点を移すと米国の労働者が失職し損害を被ると認識し、その輸入には高い関税を課すと云う。しかし、コストの高い米国内で生産された製品は価格が高くなり、一方、高い関税が課せられた輸入製品も価格は高くなり、米国の消費者(労働者)は商品価格の高騰に耐えなくてはならない。また米国製造企業がこれまで海外で構築してきた高度なサプライチェーンがもたらすメリットを享受することが出来なくなり、国際競争力の低下を来たすことは必定だ。結局、その被害を最も蒙るのは、トランプ氏を信じた低所得白人労働者だ。

尤も、経済を支え雇用を確保するには、製造業の復興は米国にとって最重要課題であろう。だが、トランプ氏が何のヴィジョンも何のシナリオも持たずに問題だけを云い募るのではどうにもならない。何ゆえ、米国は製造業が弱体化したのか、の反省なしに答えが出ようはずもない。1995年にビル・クリントン政権下のルービン財務長官が、日独中などの台頭により年々世界市場におけるシェアが低下する製造業依存から金融業依存に産業構造を転換させるため、「強いドル政策」を提唱した。たちまちドルは1995年の1ドル=79円から1998年に1ドル=147円に急上昇し、海外から膨大な資金が米国に還流した。

これまで金融機関は製造業やサービス業などの産業を活性化し新たなる雇用を生み出すことを生業にしてきたが、此処に至って、溢れかえるマネーを背景に金融は自己増殖し、やがてリーマン・ショックを引き起こしたサブプライムローンに見られたように、金融機関や投資家が利ザヤを稼ぐための金融に変貌してしまった。金融資産を持ち恩恵を受ける人と金融資産を持てない人との間にギャップが拡大した。米国の貧困と格差を生み出したのは、トランプ氏が喚く移民の問題でも工場の海外移転の問題でもない。とどの詰まりは国家を破綻に追い込んだマネーゲームによるものだった。
 しかるに、トランプ次期政権の財務、商務長官はいずれも金融業の出身だ。ムニューチン次期財務長官は投資銀行・ゴールドマンサックス出身、ロス次期商務長官は著名投資家・「WLロス」会長だ。いずれもマネーゲーマーであり、相も変わらずマネーゲームで経済を浮揚させたいのだ。マネーゲームには「強いドル」が求められ、製品輸出に優位なドル安政策を望まない。そこで自由取引を原則とする輸出入市場に政府が深く関与する「管理貿易」の体制を敷く。トランプ氏を支持した労働者に応えるために。新設の「国家通商会議」のトップに対中強固派のナバロ米カリフォルニア大教授、通商代表部(USTR)の代表に1985年の日米鉄鋼協議で日本側を異例の輸出規制に追い込んだライトハイザー元USTR次席代表が就く。

2017年1月20日、これまで世界を牽引した米国とは全く異質の米国が誕生する。米国のTPP離脱は日本の成長戦略と対中戦略に大きな打撃となる。怯むことはない。これを奇禍として、米国抜きの11ヵ国でTPPをまず発足させ太平洋諸国との経済外交を積極的に深化し、米国との提携のあり方を追求することだ。日本に求められる責務は重い。
以上

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