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2016年7月28日
南シナ海中国主張否定、仲裁裁判所。世界からパッシングを受ける中国
中国やフィリピン、ベトナムなどの周辺国が領有権を争う南シナ海問題について、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は7月12日、中国が南シナ海のほぼ全域を自国領と主張する境界線「9段線」に国際法上の根拠なし、との判決を下した。南シナ海問題を巡る初の司法判断で、3年前に提訴したフィリピンの主張を全面的に認める判決となった。

中国は早速強く反発し、この判決を無効と喚くが、仲裁裁判所が決定した判決は世界の秩序そのものであり、どの国も遵守しなくてはならない。7月16日、モンゴルの首都ウランバートルで開かれたアジア欧州会議(ASEM)首脳会議の際、中国は、「判決棚上げ」を条件とする2国間交渉をフィリピンに持ちかけたが、フィリピンは「判決の履行抜きでは自国の国益や憲法にそぐわない」と拒否した。なお、ASEM首脳会合は中国の反対を押し切り、中国の海洋進出を念頭に「国際法の完全な遵守」の重要性を議長声明に織り込んだ。

また、東南アジア諸国連合(アセアン)は7月24日、ラオスの首都ビエンチャンで外相会議を開き、仲裁裁判所の判決への対応を協議した。領有権を巡り中国と激しく対立するフィリピン、ベトナムに加え域内で存在感を増すシンガポール、インドネシア、マレーシアなどの主要国が中国に判決受け入れを求める声明の公表を主張したが、中国への経済依存が高いカンボジアだけが対中批判となる文言を削除するよう要求したため、その日の共同声明に至らなかった。アセアンの意思決定は全加盟国の一致が前提で1国でも反対があれば、決定できない。中国によるアセアン分断が透けて見える。1日ずれ込んだが25日、南シナ海における中国の主張を完全否定した仲裁裁判所の判決を念頭に「国際法の遵守の重要性を確認した」と共同声明に明記した。名指しはないが、中国に判決受け入れを促すものとなった。
 本来なら仲裁裁判所の判決により直ちに埋立てを中止し構築物を解体し、原状を回復し世界の信を問うのが筋だが、中国共産党一党独裁の維持と云う核心的利益のために、ハイ、分かりましたとはゆかない。むしろ経済低迷が長引き、人民の間で高まる格差や貧困、環境等の問題に応えられずに行き詰まりを見せた政府に、今回の仲裁裁判所の判決は恵みの雨となった。そもそも諸外国との間で領土・領海の紛争が生じたとき、洋の東西を問わず、古今を問わず、自然に盛り上がるのはナショナリズムだ。中国は保革を問わず、社会のあらゆる階層から政府を支持する声がいっきに上がった。習主席がことある毎に、「南シナ海は古来より中国の領土であり、仲裁裁判所の判決を受け入れられない」と主張する所以だ。

かくて中国が引き起こした南シナ海問題は仲裁裁判の判決で世界を敵に回す結果となったが、経済でも中国の鉄鋼製品の過剰生産が世界のパッシングを受け出した。中国国内で消費し切れない膨大な量の鉄鋼製品が超安値で海外に溢れ、海外の鉄鋼企業が次々と閉鎖に追い込まれている。中国の主要鉄鋼企業は国有で公的資金の注入を受けているため採算度外視の生産が可能だ。5月に開かれた主要7ヵ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の首脳宣言は7ヵ国が連帯して、中国の過剰生産について広範囲な貿易政策上の措置と行動を検討するとし、反ダンピング課税の適用をちらつかせた。

次いで6月6日、北京で開催された米中戦略経済対話でも、鉄鋼の過剰生産能力の問題が最重要課題として取り上げられた。米国は、中国の過剰生産が米国を初め諸外国へのダンピングに繋がり、世界市場を破壊していると指摘し、中国は鉄鋼生産の削減に努めると約束した。また7月10日、上海で開かれた20ヵ国・地域(G20)貿易相会合は、中国の鉄鋼の生産過剰問題で20ヵ国が協調する内容を織り込んだ共同声明を採択した。議長国の中国は生産過剰問題を外すよう主張したが、日米欧加の連携による集中砲火を浴びて中国は折れた。

習近平国家主席が誕生した2013年以降、中国は「積極外交」をゴリ押し気味に意気揚々と進めてきたが、ここにきて世界からの孤立感が鮮明に漂う。南シナ海問題はナショナリズムを高揚させたが、ナショナリズムは諸刃の剣だ。南シナ海の紛争が中国政府の主張する方向に行かず、かつ政府にその手立てがないと分かれば、ナショナリズムの矛先は政府に向かう。一方、鉄鋼の過剰生産削減には大量の人員解雇が伴う。ただでさえ社会や経済の不安に人民の不満が充満するなかでの新たなる大量失業が発する政府への怨嗟は如何ばかりか。人民の怨念が絡みつくナショナリズムのマグマは、もはや中国共産党独裁では制御不能か。

杭州で中国が議長国とする主要20ヵ国・地域(G20)首脳会議が9月4日に開催される。中国政府が直面する内政問題にいかに取り組むか、そして世界といかに協調してゆくか、開陳するべきだ。中国問題が世界の最大懸念だ。
以上

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