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2016年3月26日
豹変した白馬の騎士、鴻海。銀行私益優先、シャープ再建
シャープは、官民が出資するファンドの産業革新機構が示したオッファーを蹴り、世界最大のEMS(電子機器受託製造業)の台湾・鴻海精密工業から総額7000億円規模の支援を受け同社の傘下に入ることを2月25日の取締役会で決定した。もともと産業革新機構は事業会社ではなく、「次世代の国富を担う産業を創出する」ことを目的とした投資会社だ。シャープへの提案では、一時的に機構の傘下になっても、再建が成る5〜7年後に株を手放し、もとの独立したシャープに戻すとしていた。鴻海の再建案は、シャープを買収し同社のブランドや技術をビジネスに活かす、とするものだ。

「鴻海」決定の決め手は、シャープの主力銀行のみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行が保有する2000億円のシャープ優先株の取り扱いにあった。機構はシャープ再建のために優先株の実質放棄を求めたのに対し、鴻海はシャープの帰趨に決定力を持つ銀行を取り込むため、優先株を1000億円で買取する提案をした。結果はシャープ取締役の構成を見れば一目瞭然だ。13人の取締役は、プロパー4人(社長含む)、金融機関系7人、中立2人、である。社外取締役のうち2人はメガバンク出資ファンドのJISの会長と社長だ。機構派のプロパーは多勢に無勢だ。機構による「再建」成就より鴻海による「債権」確保を選んだ、というわけだ。

かかる陣容の取締役会は寒すぎて、モノ造りに不可欠な自由闊達なる発想とその具体化はとても得られそうもないが、一時期一世を風靡した亀山ブランドのテレビが韓国や台湾,中国の安値攻勢に晒され、平成24年3月期3760億円の欠損に落ちて以降、現在に至るも巨額欠損の状況から抜け出せない。確かに液晶技術を開発確立したのはシャープであるが、今では後発の韓国,台湾,中国勢が市場の主導権を握る。赤字転落後4年たつが、時間が無為に流れ資産が大きく毀損しただけで、その間、シャープが反転攻勢をかける技術はみられない。吉永小百合さんの清々しCMもなくなり、「技術のシャープ」はすっかり色褪せた。

かくて、シャープは鴻海による買収提案を受け入れた。その開示資料に、鴻海は株主総会議決権66%を得るとし、取締役の3分の2以上を鴻海が指名する、とある。つまり、鴻海はシャープの社長を選ぶことができ、定款変更や他社への事業譲渡などを自由にできる。買収とはこう云うものだ。だが、高橋與三社長は、経営の独立性、従業員の雇用維持、ブランド価値、技術の保持、等々のコミットメントを得られた、と言う。厳しい事態を直視できず希望的なる観測しか言えない経営者を頂く従業員は惑うしかない。歴代経営トップの人材欠如がシャープ転落の所以だ。

しかるに、鴻海は苦境に陥った企業を救ってくれる「白馬の騎士」と云えるのか、些か疑問だ。4年前の2012年3月、シャープと鴻海は、鴻海がシャープの第3者割当増資を引き受け、発行済み株式の9.9%分を1株550円で翌年3月までに取得することで合意した。しかし、その後シャープ株が3分の1に下落したため、鴻海は一方的に反故にすると云う経歴を残した。その鴻海は売上げ14兆7461億円(2014年)の巨大企業だが、ブランド技術なき受託製造業のゆえに薄利多売で純利益4569億円にとどまる。中国に生産拠点を置くが、賃金上昇の煽りを受け利益の低減を余儀なくされ、鴻海自体が盤石な状況にあるとは云い難い。

そして、事件が起こる。シャープが鴻海による買収案を受け入れた2月25日の取締役会の前日24日に、シャープが鴻海の要求に応じて提出した3500億円に上る偶発債務のリストを見て鴻海は突如として問題化した。シャープは内容については昨年12月の資産査定で報告済みとするが、鴻海は今回初めて知ったと主張し、25日午後に予定していた調印を延期した。ちなみに偶発債務とは将来何らかの事態が起これば発生の可能性がある債務だ。鴻海は偶発債務のチェックに時間を要すると言うが、事件以来すでに1ヵ月が経過する。鴻海の狙いが出資額の大幅減額要求であることは明々白々だ。思わず4年前のトラウマが蘇る。

ライバルを消すために甘い話しを持ち掛け、ライバルがいなくなれば突然豹変し本性を剥き出す形振りは、信用が根幹のビジネスに馴染まない。これでは鴻海の買収が成っても、鴻海が望むシャープ技術を担う人材の「鴻海シャープ」離れを防ぐことはできまい。ヒトなき企業は廃墟そのものだ。何の価値があるものか。

また、私益に立って債務転嫁を目論みシャープから手を引きたい銀行を強かな鴻海が見逃すわけがない。逆に再建に必要な巨額資金の追加融資を免れまい。かかる次第を招いた銀行に失望を禁じ得ない。泥をかぶってでも日本の産業を守り発展させること。それが、バブルに塗れて破綻し、国民の税金注入で救われたメガバンクの使命だろう。
以上

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