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2015年7月21日
近づく生産システム・パラダイム・シフト。製造企業にIT技術乏し、国家戦略不可欠
年初より中国官製メディアが頻りに、日本製造企業が国内回帰するニュースを報じている。中国の国営通信社・中国新聞社は、円安を背景に日本の電子メーカーが日本国内に生産拠点を移管し始めていると述べ、「メイド・イン・ジャパン」は再び世界を席巻できるか、の記事を掲載した。日本で生産された家電はかって世界を制覇したが、中国と韓国企業の台頭により日本企業は勢いを次第に失った。その家電が、アベノミクスによって円安が生じ且つアジア各地の人件費が上昇したことから、日本企業の多くが国内に生産拠点を回帰させていると報じる。日本企業はこれまで円高を背景に人件費の安い国に生産拠点を設けたが、2012年の1ドル=80円から1ドル=120円まで円安が進行したため、日本国内で製品を作る上での採算性が向上したと分析する。行間に日本企業撤退による中国空洞化の危機感が漂う。

確かに現下の日本経済の回復を支えるのは、中国メディアが伝える通り日本製造企業の国内回帰だ。自動車や電機の大手において、国内生産比率を高め円安による輸出メリットを享受するだけでなく、海外で調達してきた製品や部品を国内にシフトする動きが出て来た。円安には輸出採算を改善する作用がある他に、円安で製品や部品の輸入コストが上昇するため逆輸入から国産への転換を促す作用がある。円安は2012年末より進行したが、輸出企業は為替差益のみによる利益の確保に動き、現地価格を下げなかったため輸出数量はなかなか伸びなかった。だが昨秋より現地価格の引き下げに舵を切り数量ベースでも輸出が伸び出し、2015年に入って国内生産の高まりが見られるようになった。

その動きは設備投資に顕著に反映された。リーマンショックで生じた設備の過剰感は今日では不足感に転じ、老朽設備の更新需要が高まった。日本工作機械工業会が発表した6月の工作機械受注額は、前年同月比6.6%増の1360億円と21カ月連続で前年実績を上回った。その内、内需は41.4%増の603億円と24カ月連続増となった。製造企業はリストラや賃下げ、正規雇用から非正規雇用への切替えなどで溜めた豊かな余剰資金を抱えながら、利益確保の観点から長期にわたって設備投資を抑制し設備更新を控えてきたが、此処に至ってやっと国内の設備投資に踏み切った。

しかるに日本製造企業の立地戦略は、リーマンショック以降辛酸を舐めさせられた円高再来に対応する「地産地消」が依然として大勢であり、現下の国内回帰は、円高による空洞化であまりにもお粗末になった国内設備を円安の機に取替えなどの手入れをするものであり、生産力の国内外における分散是正にすぎない。それは生産増を見込む従来型の設備投資であって、今後日本が迎える本格的な人口減少時代を想定する次世代型ではない。これでは、ドイツや米国の先進製造企業との競争はおろか、激しくキャッチアップする新興国製造企業の追随を振り切ることも出来ない。

ドイツは政府が、2020年を目標に「インダストリー4.0」を産官学挙げて推進中だ。工場を核にインターネットを通じてあらゆるモノやサービスを連携させることで、抜本的な生産性の向上やコストの切り下げなどモノづくりの競争力を強化する、斬新な取り組みだ。背景にモノづくりが新興国など賃金の安い国や地域に拠点化することへの危機感がある。「4.0」は第4次産業革命を意味しスケールが大きい。米国GE社は今4月、金融事業を縮小し製造業回帰を加速すると発表した。GE社は航空機エンジンやガスタービンで圧倒的な世界シェアをもつ。これまでの製造技術にデジタル技術を駆使するビジネス、「インダストリアル・インターネット」を展開する。ドイツも米国もIT技術を進化させこれまでのハードウェア主体の製造からの脱皮を図ろうとする。

一方、日本のIT技術は従来の延長線上の生産効率の対応に留まる。日本製造企業がIT技術に弱いのは理由がある。1989年の冷戦終結後、米国は軍事機密のインターネット技術を民間に開放し、IT技術は全世界で一気に広がり且つ急速に進化したが、日本は1992年のバブル崩壊を緒とする「失われた20年」に陥り、その間、日本製造企業は新技術吸収に絶対不可欠な新卒採用を手控え、かつ正規雇用を非正規雇用に切り替えてきたため、IT技術を担う人材層が極めて薄いのだ。

企業ベースに任せていては、モノ造り日本の将来は危ない。政府は国家戦略として産官学を結集し、ハードウェア・IT技術融合の次世代生産システムの開発を急ぐべきだ。パラダイム・シフトなしに製造業の活路はない。さもなければ、今5月に中国が発表した、製造業強化の10カ年計画、「メイド・イン・チャイナ2025」に、日本は呑み込まれるしかない。
以上

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