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2015年6月30日
AIIB設立波乱、7ヵ国署名せず。米議会TPA認可、TPP合意加速
6月23日開催した米中戦略・経済対話を前に米中の対立感を薄めるために、中国外務省報道官は、南シナ海のベトナム、マレーシア、フィリピンなどが領有権を主張する南沙諸島で行っていた岩礁の埋立てについて、「近く完了する」、と発表したが、米中対話が閉幕するや否や26日、中国は中国とベトナムが領有権を争う南シナ海北西部の海域で、石油掘削作業を開始した。中国は、戦力圧倒的優位の米国との戦闘行為を最も恐れているが、その懸念がないとの感触を得れば、どんどん既成事実を積み上げてゆく。東シナ海の尖閣諸島への侵略姿勢も隠さない。経済・軍事大国の中国の脅威にアジア諸国は常に晒されている。

その中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立協定の署名式が6月29日、北京で開かれた。創設メンバーとして参加を表明した57カ国のうち、フィリピン、タイ、マレーシア、デンマーク、ポーランド、クウェート、南アフリカの7ヵ国が設立協定に署名しない、波乱の門出になった。足並みの乱れに、アジアで脅威を高める中国への警戒心が滲む。

AIIBは、中国が最大出資比率(30.34%)を占め拒否権を持ち、本部を北京、総裁を中国人、事務局を監督する常駐理事会は設置しない、とする完璧なる中国支配の国際金融機関だ。だが、中国自体はアジア開発銀行(ADB)から巨額の借入れがあり、今後も物理的経済的に陳腐化した巨大なる生産インフラの更新に必要な資金はまことに膨大だ。それ故に、AIIBが借り手(中国)に都合よく巨額資金を低利で貸し出す「機関銀行化」とならない手立てが不可欠だ。また、中国の影響力拡大だけを目的とする融資がないようにする透明性のある運用が如何にされるのか、ゴリ押しを平然と行ってきた国であるだけに、今後の成行きが注目される。

習近平国家主席は署名式後、各国代表と会見し、中国の新シルクロード経済圏構想(一帯一路)とAIIBを梃子にアジア地域で中国主導の経済圏づくりを進めたいとの意欲を示した。中国主導の経済とは国家資本主義であり、日米欧や近代化に一歩踏み出したアジア諸国の自由主義経済とは相いれない。市場原理に基づいて企業が競争する自由主義経済と異なり、国家資本主義は国家が経済活動を主導することによって推進される資本主義で、国営企業や政府系ファンドを通じて政府の政治的意向(保護貿易拡大など)が経済に大きく反映される。中国が支配するアジアとなれば、日本の経済活路はあり得ない、まさに存亡の時となろう。

しかるに、貿易と直接投資を通じて経済的相互依存が益々深まりつつあるアジア太平洋地域において、日本は如何なる戦略で台頭する中国に対応すべきか、日本は主体的な構想をもって積極的に臨まなくてはならない。政権発足当初よりアセアン重視を標榜し且つ実行してきた安倍首相は5月21日、東京都内で行われた国際交流会議で、公的資金によるアジア向けに高品質のインフラ投資を今後5年間で、日本が主導するADBや政府開発援助(ODA)を通じた融資を約1100億ドル(約13兆2千億円)の投資拡大を目指すと言明した。また7月4日に日本・メコン地域諸国首脳会議を東京都内で開き、「質の高い成長」を共同声明に謳う予定だ。メコン川流域のタイ、ミャンマー、ベトナム、ラオス、カンボジアの5カ国が参加する。ちなみにタイから新幹線、ベトナムから原子力発電、ミャンマーから鉄道信号システムを受注し、地域のインフラ貢献に布石を打ちつつある。

何より威力を発揮するのは、日米が推進する環太平洋経済連携協定(TPP)だ。日米両政府は、米国議会が6月24日にオバマ大統領に強力な通商交渉権限(TPA)を認めたのを受けて、TPP締結に向けた2国間の最終交渉に入る。貿易自由化率を、日米間で95%超とする方向だ。7月中に12カ国による全体合意に向け、中核の日米が質の高い水準で合意することによって、アジア太平洋地域の貿易自由化を加速させる。この動きに中国は関心を寄せるが、中国が国家資本主義を固執する限り、TPP参加はない。中国がTPPに参加できなければ、TPPによってカバーされる生産ネットワークから中国は弾き飛ばされ、日本企業はグローバルなサプライ・チェーンの効率化のために、対米輸出の生産拠点を全面的に中国からベトナムやマレーシアなどTPP加盟国に移転するのは当然の帰結だ。日系企業の中国脱出は中国に根幹的な打撃を与えることは必至だ。やがてAPEC加盟国から先進技術の豊富な日米を中核とするTPPへの参加国が増え、国家資本主義の中国は孤立する。

現状にあって中国に対応するには、安全保障とTPPの両面で米国との同盟深化を図り、アジア諸国との連携拡充に努めなくてはならない。しかし同時に、日本は中国との戦略的互恵関係を推進し、早期に中国の国家資本主義経済から自由主義経済への転換とTPP参加を誘うシナリオを描き、中国を排除するのではなく取り込むことが肝要だ。
以上

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