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2014年3月25日
円安でも続く高水準海外直接投資。舞浜会議が招いた国内人的資源空洞化
今春闘は、自動車・電機の大手が過去最高水準のベースアップ(ベア)を回答するなど、近年にない活況を呈した。経営者側は当初、政府の春闘介入に批判的で、昨年の春闘では一時金の増額には応じたが、ベアをした企業は殆どなかった。今春闘で大手が高水準のベアに踏み込んだのは、安倍首相肝いりの「政労使協議会」など、政府の異例とも云うべき賃上げ要請によるところが大きい。組合側は20年間も減少傾向にあった賃金水準を一変させる回答を得たが、政府の強い要請がなければ賃上げを勝ち取れない現実が依然として残る。労使の交渉過程で、賃上げを求める安倍政権への配慮を口にして、持続的な賃上げには釘をさす経営者もいた。

もともと賃上げや一時金は企業個々の労使が交渉して決定すべきものであろう。しかし、1992年のバブル崩壊後の人員大量削減を初め今日に至るまで、企業は賃下げや正規雇用から非正規雇用への雇用切替えなど一貫して労務コストの削減によって収益を出し巨額の余剰資金(270兆円)を積み上げ、企業の成長に不可欠な人材投資や開発投資、設備投資を怠ってきた。その上、労務コスト削減の延長線で低賃国への生産拠点を積極的に行い、益々国内での企業活動を縮減させた。これでは、消費面も投資面も活力が生まれる筈もなく日本経済は、「失われた20年」のデフレにならざるを得ない。

企業は毎年儲けているのにベアをしない。何故か。「それは労働コストの削減だけで儲けているのだからベアが出来るわけがない」との論理は極めて明瞭であるが、国民は年々貧しくなるばかりでこのような論理が続くわけがない。しかし、この状況が20年間も続いてきた。その間、「雇用」は様変わりした。以前は本工を目指す臨時工などの非正規雇用があったが、その割合は極めて低かった。今日では全雇用の40%を非正規雇用が占め、その数2000万人に上り、今なお更なる増加に向けて進行中である。かって、日本を経済大国に仕立て上げた、「会社は従業員を思い、従業員は会社を思う」労使協調体制は、今はどこにもない。

いつから日本の雇用慣行は変わったのか。それは1994年2月に東京ディズニーランド(千葉県舞浜)近くの「ヒルトン東京ベイ」で行われた大手企業のトップらによる「舞浜会議」が転機となった。当時はバブル崩壊でどの企業も空前の過剰債務、過剰雇用、過剰設備を抱え、先の見えない状況にあった。そして時あたかも、米国かぶれのエセ学者らが導き入れた、米国発の新自由主義(犯罪でなければ何をしても良いとする利益優先の考え)と「株主重視」の流れが、日本が営々と継承してきた「雇用重視」の流れにぶつかりあう局面にあった。

「企業は、株主にどれだけ報いるか、が大事だ。雇用や国のあり方まで考える必要はない」とオリックス社長・宮内義彦。「それは、国賊だ。我々はそんな気持ちで経営をやってきたわけではない」と新日鉄社長・今井敬。「雇用重視」対「株主重視」の「今井・宮内論争」は、「日本型雇用」が崩壊する、まさに転機となった。たちまち日本列島はリストラが燎原の火のごとく広がり、やがて小泉純一郎政権下で大臣に登用された新自由主義一派と目される竹中平蔵氏が製造業への派遣自由化を実施するに至って、正規雇用の圧縮と非正規雇用の急激なる増大が現出された。

正規雇用と非正規雇用との所得格差の拡大が様々な社会問題を惹起していることは周知のとおりだが、何よりも由々しきは、長期に亘る正規雇用の採用手控え(採用をしない)によって製造業は人的資源が空洞化したことだ。バブル崩壊前に入社した社員は、現在43歳前後で本来なら課長から昇進して、そろそろ部長になる頃である。だが、バブル崩壊後は正規社員をまともに採用していないから部下がいない。いるのは非正規雇用者だ。これでは、組織のコアになるべき正規社員はいつまで経っても雑用の仕事をやらざるを得ず、マネジメント力も専門性も身につかず、会社の根幹を担う人材にはなり得ない。

円安になっても輸出数量が増えないのは、国内の人的資源が空洞化し、かつ設備の老朽化が激しく、製造ラインの新鋭化を図る能力が失われたからだ。だから円安が進んだ2012年以降も、製造業の海外直接投資は引き続き高水準増加傾向にある。しかも最近は、海外の研究開発部門が拡充され、中国・インド・台湾などの優秀な技術者の活用も活発だ。

バブル崩壊後に大量にリストラされたデジタル家電技術者は韓国や台湾のデジタル家電企業に就職し、最先端の技術を短期間に移転させた。その結果、日本のデジタル家電産業は壊滅した。安易に「株主重視」に舵を切った経済界の罪は万死に値する。

雇用重視を捨てた「舞浜会議」の反省に立ち戻らなくては、日本再建はない。
以上

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