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2014年3月10日
TPPを阻害する農協。過去の遺物、農業協同組合法
シンガポールで開かれた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会議は2月25日、合意することなく閉幕した。参加国12カ国の閣僚は、今回の交渉について、「合意に向けて大きく前進した」との楽観的な共同声明を発表した。しかし、海外メディアは、昨年12月に終了する予定の交渉が未だに合意に達していないのは、日本が聖域化して守ろうとするコメ、牛肉、乳製品など5品目の農産物や自動車の輸入にかかる関税・非関税障壁を巡る日米の溝が大きく、日米2国間に原因があると指摘した。

案の定、米通商代表部(USTR)のカトラー次席代表代行が3月7日、バージニア州リッチモンドで講演し、農産物の関税を巡る日米間のこれまでの協議について、「農産物5項目の関税撤廃の例外を求める国会の意向もあり、日本の交渉官の姿勢は極めて慎重だ。協議の進展は限られ大きな隔たりがある」と、厳しい認識を示した。そして、「先のシンガポール閣僚会議で参加国各国は日本に対し、TPP交渉参加に際しての約束を守るように、念を押した」と述べ、各国は高い水準の自由化に向けた日本の対応を迫っているとの見方を示した。

そもそも日米2国間の問題は、日米経済摩擦がピークに達した1980年代からの難題だ。TPP交渉は、実質上は日米自由貿易協定の交渉とならざるを得ない。日米双方とも国内の保護主義勢力の強烈な抵抗がある現実から目を背けるわけにはゆかない。とりわけ米国は自動車業界を中心とする労働組合や議会の保護主義勢力の意向に左右される。表面的な関税をゼロにしても目に見えない非関税障壁のある日本市場に進出することより、むしろ日本を米国市場から締め出したいのだ。

米国は日本と異なり、合衆国議会が貿易交渉の権限を持つ。それを条件・期限付きで政府に移譲することで交渉をスムーズに進められるようにするのが貿易促進権限(TPA)だが、オバマ大統領は未だにTPAを取り付けていない。米政府が苦労してTPPの合意を得たとしても、それが議会の意向に沿わなければ再び各国と交渉しなくてはならない。自動車業界の理解を得るには、日本から相当な譲歩の獲得が条件となろう。

一方、日本のTPP抵抗勢力は何と云っても「農協(JA)」である。農業協同組合法は終戦直後の1947年、農業者の共同組織の発達を促進することにより、農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向上を図るために定められた。このうち経済的社会的地位の向上については、1965年以降、農家の所得が勤労者世帯の収入を上回って推移するようになり、その目標は叶えられた。農家はGHQによる農地改革で貰った農地を宅地などに転用することで莫大な利益を得た。また、農業機械の発達により兼業が可能になり、兼業農家が蔓延した。今日では、「おしん」のような戦前の貧しいイメージはない。

農家の暮らしは良くなったが、肝心の農業生産力の増進はどうか。JAが主導した高米価・減反政策が、日本の農業を弱体化させたのは明々白々で疑う余地はない。米価を高くするため耕地を減らし、減反した者に補助金を与えるなどはもってのほかだ。農家に鈍(なまく)らを奨励して、生産力を増進できるわけがない。コメ消費者の国民は、補助金(税金)を納入し、かつ高いコメを買わされる。この不条理が1969年以降44年間もまかり通ってきた。

その上、JAの直近の組合員数は969万人(正組合員472万人・准組合員497万人)で、1985年の組合員数807万人(正組合員554万人・准組合員253万人)から162万人増加しているが、正組合員が減少し准組合員の大幅増により、正准の組合員構成比率が逆転し、もはやJA法は形骸化してしまったと言わざるを得ない。ちなみに准組合員は一般の地域住民。

さすがに今日では減反廃止は自明の理となり、「5年後をめどに減反廃止を決定した」、と安倍首相は昨年12月10日の会見で述べた。コメ生産に競争原理を持ち込むことで、意欲ある農家の経営規模拡大を促す狙いがあったはずだ。だが、しかし である。家畜のえさにする飼料用米などへの転作を促す補助金を増額し、主食用のコメを作るのと同等の収入を得られるとしたのはどういうことか。これでは主食用のコメ生産が抑えられて、減反と同じ効果が生まれ減反廃止の意味がなくなり、いつまでも競争原理が培われない。

そこに票田969万票を束ねるJAへの阿(おもね)りが見え隠れするのだが、こんなことでは日本の農業は益々脆弱化するのみだ。かかる甘い施策のコメ聖域化が、満を持してガチンコ勝負に来る米国との交渉に通用する筈もない。ならば、JAの思惑通りのTPP交渉脱退となれば、その時、日本は世界から孤立するしかなかろう。JA法の廃止なしにTPP展開はない。安倍首相が唱える「戦後レジームからの脱却」において「農協」を忘れてはならない。
以上

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