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2013年12月8日
輸出力低下、円安も輸出数量伸びず。ヒトを「コスト」から「人」へ、技術立国再構築
10月の全国消費者総合物価指数は100.7%で前年同月比1.1%アップとなった。前年同月比アップは6月以来5カ月連続。また、価格変動の大きい食料とエネルギーを除く指数が前年同月比0.3%上回り、5年ぶりにプラスになった。幅広い品目で価格が上がり出し、これまでの物価が下がり続ける「デフレ」は収まりつつある。円安で輸入品の物価が上昇したためだ。なかでもエネルギー価格は前年同月より7.0%上昇した。甘利明・経済財政相は、「デフレ脱却に向けた姿が更に明確になった」と胸を張る。

しかるに、基本給は9月まで16カ月連続で前年を下回り、ボーナスを含む総額でも3カ月連続でマイナスの状況にある。このままでは物価上昇が家計を圧迫し、個人消費が落ちるばかりでは、下手をすれば来年4月の消費増税を待たずして「デフレ振り戻し」の可能性なし、と言えまい。生活物価が上昇したのに相も変わらず賃金の改善がみられないとなれば、デフレ脱却に目標をおくアベノミクスは失敗に帰し、国民はデフレ下の物価高に晒される。

それだけに安倍政権は賃上げに力を注ぐ。考えられる限りの企業減税を提示し首相肝いりの政労使会議などあらゆる機会を捉え、長きに亘り年々労務費を削減して内部留保を積み上げ、また、この度はアベノミクスの円安メリットに浴した経営者にしきりに賃上げを要請してきた。大手マスメディアが11月、全国主要100社に対し調査したところ、利益を従業員に還元することに前向きの姿勢を示す企業が増えたが、多くはボーナスなど一時金を増やす考えで、政権が期待する、賃金体系を底上げするベースアップの検討を明言したのは僅か4社にとどまった。

東レの日覚明広社長は、「現実は甘くなく、企業はコストを下げないと勝てない。ベアをすれば後から雇用調整を迫られることになりかねない」と言う。これが大方の経営者の考えだろう。確かにコスト重視は経営の重要課題だ。1990年代初頭におけるバブル崩壊後、企業はコスト削減のために、何回も過剰人員のリストラに追い込まれ、次いで迎えた21世紀の2000年代は、急速に台頭してきた韓国、台湾の新興工業国や中国など人口大国BRICsらとのコスト競争に対応するため更なるコスト削減を強いられ、生産拠点を低賃金国に移転させ、国内では年々労務費を圧縮し続けて来た。ヒトをコストとして扱うに連れて、雇用も変わり、正規雇用から非正規雇用へのシフト替えが今なお続く。

これでは、日本は低賃金化と共にヒトが年々劣化してゆくだけだ。そして、賃金もヒトの質も、どんどん後進国レベルの方向に成り下がってゆく。一方、日本などの先進国技術のキャッチアップに勤しむ新興国の人達は、より高い賃金を求めてキャリアアップに努める。安かろう、悪かろうの新興国の製品品質がどんどん良くなり、また、デジタル家電のように新興企業サムスンなどの後塵を拝する分野も広がり、今日ではメイド・イン・ジャパンは昔日の輝きがない。円安に転じて1年が経っても、円安によって価格競争力が強くなった筈なのに、輸出数量がかってのように増加しない。10月の貿易収支は1兆円超の赤字を計上し、貿易収支の赤字は16カ月連続の厳しい状況にある。

バブル崩壊後このかた20年、目先の利益のために労務費圧縮だけの安易な経営が、賃金下落による需要低下を招いて国内をデフレに落とし込むだけなく、輸出競争力をも弱体化させたのだ。この危機的な実態に至っても、念仏を唱えるように経営者は労務費圧縮でコストを下げないと勝てない、ベアなどとんでもないと宣う。最も大事な製品の品質上の競争力がとっくに無くなっているのに、である。

技術は高いところから低きに流れ、低いところの技術は向上する。そして技術を磨かなければ、いずれ、新興国は技術競争に鎬(しのぎ)を削る相手となる。20年間、技術の錬磨を怠った日本は、もはや、技術や品質、価格面で新興国との競争における優位性はない。

やるべきは、高付加価値製品の開発とそれをいかに低廉に製造するか、の生産技術の開発だ。そのためには、ヒトを「コスト」ではなく、「人」として遇し、意気を以て仕事に勤しめる賃金体系に改めなくてはならない。天然資源なき日本には、人的資源の重要さが浸透していた。人は城、人は石垣、人は堀。はたまた、企業は人なり、の言葉にあるように、人の知恵をふんだんに活用する経営に回帰し技術立国を再構築しなければ、日本の前途は危ない。

開発にはリスクが伴う。賃金削減による益出ししか能のない、現下の足元の危機すら見えず、先読みの出来ないサラリーマン経営者には、まさに異次元の経営課題だ。経営者の革新的新陳代謝なくして経済立て直しなし、である。
以上

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