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2013年10月11日
日本製造業を蘇生した円高是正。喫緊の生産技術力再構築
内閣府が発表した8月の機械受注統計によれば、民間設備投資の先行指標となる「船舶・電力を除く民需」の受注額が8193億円と前月に比べ5.4%増え、3カ月ぶりに増加に転じ、受注額はリーマン・ショックが発生した2008年9月以降で最大となった。業種別には、金融・保険業や運輸・郵便業からの受注が大きく伸びた非製造業が前月比6.2%増の4910億円と大半を占めるが、製造業も前月比0.8%増の3213億円となり、比較可能な05年度以来、初めて4カ月連続で前月を上回った。100億円を超えるボイラーなどの火水力発電機の発注があり、化学工業や造船業からの受注が相次いだ。また、9月の日銀短観の設備投資計画では、上期は非製造業が多く、下期は製造業が多くなり、設備投資のけん引役は非製造業から製造業に移行すると見る。

なかでも、中国、韓国の造船シェア伸長によって、2014年以降に建造する船がなくなると懸念された「14年問題」を抱えていた造船業界にあっても、薄明かりが射し出した。今年に入り円安が進行したことにより、欧州や台湾の海運会社が日本の造船会社に発注を増やした。日本船舶輸出組合による輸出船契約実績は、13年8月はもともと夏季休業の影響で落ち込みやすく前年同月比18.8%減となったが、今年1〜8月の輸出船契約実績累計は、前年同期比185.7%と大幅に伸び、13年通年では3年ぶりに1000万総トンを超す見込みで、「14年問題」は解消されたとする見方が高まった。また今後、国内の海運業界における投資再開の動きが、日本の造船業界に追い風となろう。

かくて、アベノミクスによる「円高是正」を機に、日本製造業が息を吹き返す機会を捉えたのは間違いない。
しかるに、1990年代初めのバブル崩壊で、過剰債務・過剰雇用・過剰設備の3過剰苦に陥った製造業は活路を労働コスト引下げに求め、ひたすらリストラ、正規雇用から非正規雇用への切替え、低賃金国への工場移転を推進してきた。殊にリーマン・ショックを契機に、「円」相場が独歩高となり、国内企業は海外への生産シフトを加速させた。その結果、確かに企業の多くは延命した。死に体同様の企業も含めて,である。しかし、人を安く使って儲けるやり方は、これほど頭を使わない安易な経営はあるまい。

その結果、モノ造りに不可欠な「生産技術力」を退化させてしまった。日本が世界に誇るのは古来より育んだ「モノ造り」の技術だ。生産技術は、技術、技能、ノウハウ、暗黙知と云った価値の集合体であり蓄積がモノを云う。日本は、バブル崩壊以降今日に至る20年の長きに亘って、生産技術を支えた技術者、技能者の多くを不要不急のモノとしてバッサリ切り捨て、その後も人材手当を一切することなく、日本を経済大国に成し上げた「生産技術力」の根幹を毀損してきた。ほんの10年ほど前には影も形もなかった韓国・サムスンや台湾・鴻海の後塵を拝する日本デジタル電機業界における惨状はその所以だ。中国自動車企業の社員が云う、「生産ラインは、機械や設備を買えば構築できる。金型はソフトウエアがあればすぐコピー出来る」、と。それほど技術やノウハウがない新興国でも、簡単に製品が出来る時代になった。新興国でも競争力の源泉は、もはや低賃金ではなく生産技術に変わったのだ。

一方、日本では、コスト削減のために、低賃金化を徹底する雇用体制や安易な海外シフトの結果、何が何でも生産技術力で競争力を高めようとするかっての意欲は消えてしまった。やるべき課題が一杯あるのに、である。それこそ、10分の1以下の低賃金国に打ち勝つ生産ラインの構築や少量生産でも利益を出し得るライン、変種変量生産に対応する新工法等々山積だ。目標が定まれば人は死に物狂いでその達成に向かう。これが日本人気質だ。技術指向に転じたとは云へ所詮、モノまね次元の新興企業が成せる技では決してない。

しかし、バブル崩壊して現在に至るまで経営者は何代も人が変わったが、皆一様にして保身のために目先の利益しか考えず、ヒトを人財ではなく単なるコスト扱いにし、競争力の根源である生産技術力をかなぐり捨て、この国をまさに「失われた20年」に陥れた大罪は歴史にその名を留めるに違いない。

今、製造企業が急ぐべきは、ベテランの生産技術関係者が健在のうちに技術を若手にしっかりと継承し、自前の技術を発展させる体制を再構築することだ。そのためには、先ず、社長は従業員が安心して働ける環境を作り、従業員は社長の方針を懸命に達成せんとする、シンプルな絆の再形成が必要だ。日本製造業は、21世紀の世界で存在感を益々増すのか、それとも、製造大国であった英米の製造業衰亡の跡を辿らざるを得ないのか、その岐路に立つ。
以上

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