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2013年9月3日
優柔不断で機先を制せられたTPP。経済戦争に勝ってこそ外交
ブルネイで開かれた環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉会合が8月30日、9日間の日程を終えた。参加国12カ国は10月の「大筋合意」、年内の「最終合意」を目指す。TPPは国際的な自由貿易体制の強化を図るものであるが、その実、TPPなる貿易交渉は、それぞれの国の実利に基づく虚々実々の経済戦争であることを見落としてはならない。いよいよ、各国があらん限りの手練手管を尽くして自国の国益を守るべく熱い戦いの秋を迎える。

もともとTPPは、2006年に発効したブルネイ,チリ、ニュージーランド、シンガポールの小国4ヵ国によるFTAに過ぎなかった。そこへ、2008年の金融危機によりこれまでの過剰消費に基づく内需型成長から輸出重視の成長に転換を迫られた米国オバマ大統領は、2010年1月、輸出倍増計画を打ち出し、その輸出先の狙いを高い成長力を有する東アジアに定め,その戦略としてアジア太平洋にまたがるTPPへの参加を表明し、たちまち米国はTPPを主導する地位に就いた。

その後、オーストラリア、ペルー、ベトナムが加わり、2010年3月に8ヵ国で交渉が開始され、日本が参加に躊躇する間に、さらに2011年にカナダ、メキシコが参加し、TPP交渉は11ヵ国で回を重ねて行われ、いよいよ日本のTPP参加は猶予なしの状態になった。TPPについて何も決められなかった菅・野田の民主党政権が国に与えた機会の損失はあまりにも大きい。

2012年12月に就任した安倍首相は、2013年2月にワシントンでオバマ大統領と会談し、「TPPに関する日米共同声明」を発表し、3月、日本のTPP交渉参加を正式に表明した。そして、7月23日米国議会の承認を得て、やっとTPP交渉に参加する運びとなった。しかし、遅きに失したのか、安倍首相のオバマ大統領参りは、どこか伊達政宗の豊臣秀吉への恭順に似て、その代償は大きい。TPP参加の見返りに、米国との事前協議をクリアし米国議会の承認を得る環境を整えるために払った譲歩は半端でない。

日本にとって、自動車はTPP交渉において相互の市場の更なる開放を求めて良い関係を構築できる大切な分野だ。ところが、日本のTPP参加に反対する米国の自動車業界の強い要求を受けて、日本は、現在日本車に掛けられている米国の通関税を、TPP交渉で最大限後ろ倒しにされることに合意した。また、日本市場については、米国車に対する「非課税障壁」を前提に米国の改善要求に沿って交渉が進められることになった。

また、保険分野でも米国は騒いだ。日本の生命保険市場は米国に次いで世界2位の規模をもつ。生命保険全体では外資系は20%未満だが、がん保険については米国系が市場の80%を占める。なかでもアフラックは74%のシェアを持ち、営業利益の80%を日本で得ている。その米国系企業寡占の日本市場で、日本政府が100%出資の日本郵政グループの一員として強力な販売網を持つかんぽ生命が国内大手生命会社と提携してがん保険市場に参入する動きを阻止したい、とする米国側の意向を受け入れ、日本政府は、当分、かんぽ生命の新規参入を認めないと決定した。
ことほど左様に、日本が譲歩に譲歩を重ねて米国から得たものは、日本が聖域としたい「コメ、麦、牛肉&豚肉,サトウキビ&甘味資源作物、乳製品」の譲歩ではない。手にしたのはTPP参加の承認のみである。これから交渉が始まるわけなのに、これでは始まる前に日米間のTPP交渉は日本の全面譲歩で決着済みだ。ひと昔前も、日米貿易不均衡を是正するため、米国は悪辣な貿易法スーパー301条で日本を脅し1989年に行われた日米構造協議でやりたい放題された苦い記憶があるが、日本は外交で「力」で来る米国に勝ったためしがない。

有史以来,四面を海で守られてきた日本は存亡をかける外交の必要性はなかった。「沈黙は金」とされ、これが日本の外交下手に繋がった。今回のTPPについても、ああでもないこうでもないと優柔不断のゆえに致命的な遅れを取りその上、オットリ刀では、生き馬の目を抜く米国に機先を制せられるのは当然の結果だ。

しかるに、新興国の間でも、主張を強硬に通そうとする米国主導の交渉に懸念を示す国は多い。日本は米国と新興国、双方の主張に配慮しつつ、先ず自国に有利なポジションを確保することだ。そして、大事なのは何としてでもインテリジェンス力により、TPP最終局面で米国を初めとする二国間首脳レベル交渉において絶対勝利する交渉カードを準備することだ。国の将来を決する経済戦争に勝ってこそ外交である。
以上

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