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2013年5月15日
政労使協議会に難色の経済界。独り占め許すな、アベノミクス効果
安倍政権は景気回復に伴う企業の賃上げと雇用改善を図るため、政府、経済界、労働界の代表者による協議の場を設置する検討に入った。5月19日、記者団に甘利明経済再生相は「使用者側、労働側、政府が経済の好循環、雇用改善に協力できるような対話の場があればよい。景気回復が賃上げに跳ね返ってくるタイムラグを早くしたい」と語った。安倍首相が2月、現下の円安株高の明るい兆しを国民の所得増に繋ぎ消費拡大を実現しなくてはならない、として、経済3団体のトップに賃上げを要請したことに関して、「政労使」協議による押し上げを行うものだ。早速、経団連米倉弘昌会長や経済同友会長谷川閑史代表幹事は、「賃上げは個別企業の労使で決めるのが適切であり、政府が入ってくるのはいかがなものか」と難色を示した。

確かに、賃上げは個々の企業が労使で決定されるべきであろう。しかし、長期に亘って企業が少なからざる利益を出しても賃上げをしないとなれば、国の経済に歪みが生じるのは必定で、政府が労使を然るべき方向に誘導するのは至極当然の論理だ。そもそも我が国企業は、近年、景気後退面では賃金を引き下げる一方、景気拡大面では賃金を引き上げるのではなく、賃金の低い非正規雇用を増加してきたため、1998年ごろから我が国の賃金は上昇しないと云う「上方硬直性」が生じ今日に至る。

1998年以降、賃金がマイナスになるとともに企業の貯蓄が増加し続け、今日では豊富な流動性資金を保有する企業が多い。本来なら企業はその豊富な資金を新製品の開発や設備投資に投じ、企業成長の礎を築くべきところであるが、2008年の金融危機をきっかけに先行きに対する不安に怯えて現金保有を固執する状況だ。そのくせ経済界は企業の国際競争力をつける名目で法人税の減税をしきりに訴えるが、今日の経営者にはリスクを負い企業体質を強化する気概は見られず、減税をしても貯蓄に回すだけででは、企業は何も変わらない。

かくて企業が、賃金を上げない、開発投資をしない、設備投資をしない、では、日本経済は停滞するしかなく、日本がデフレの中に20年も沈むのは、むべ、なるかな、である。デフレの元凶がおのれにありながら諸悪の根源を円高になすり付け、海外新興企業に追いつかれ追い越されても何の手立てもしなかった、その企業が、アベノミクスによる円安株高の追い風を受けて、東京証券取引所第1部に上場する1318社の2013年3月期決算は、税引き後の最終的な儲けを示す純利益が前年より24.1%も増えた。2014年3月期は実に48.4%増が見込まれる(SMBC日興証券調べ)。

この流れをもって安倍首相は、企業に賃上げを喚起させ、実需の伸長を狙ったが、賃上げを表明した大半の企業は一時金の増額による正社員の年収引上げにとどまり、ベースアップの実施を決めた企業はごくわずかだ。一時金は企業の業績に合わせて増減し易いが、家計の期待に働きかける効果は、所定内給与ほど大きくはない。持続的な期待を家計に抱かせ、物価との相関関係の高いのは所定内給与であり、デフレ脱却には、所定内給与の引き上げが不可欠だ。なのに、このようなショボイやり方では、社員の士気を高められるはずもなく、企業の成長などあるわけがなく日本経済を発展させるエンジンになり得ない。

しかるに東芝と石川島播磨重工業を建て直し、臨時行政調査会でも辣腕を振るった土光敏夫の言葉に「経営に活気を漲らせるために幹部がなさなければならぬことは、ビジョンを明示し、目標を高く上げることである」とある。また、曰く「我々のようなメーカーにとって、研究開発こそは企業の生命を左右する。それゆえ私は、予算を大幅に削減せざるを得ない時期にあっても,研究所に対しては申請通り認めてきた。カネが成果と結びつくと云うよりも,カネを減らしたために所員の士気が低下することを恐れたからである」と。

経営者土光敏夫は、ヒトを活かすことに精進したが、現在の小経営者は、ヒトを使い捨てのモノ扱いにしか扱えない。経営者土光敏夫は企業を大きく成長させ日本経済の発展に貢献したが、現在の小経営者は企業の先行きすら見えず、まして進路を示すなどは論外でもっぱら政府の成長戦略にすがるのみだ。経営者土光敏夫が、賃上げは労使で決定する、と云うのならその通りだが、今日の小経営者では、ちょっと待てよ、と云わざるを得ない。

アベノミクスによる円高是正の効果を小経営者による企業の独り占めにさせるのではなく、国民全体に行き渡らせるのが政治・行政の役割である。賃上げや雇用改善に政府が関与する「政労使協議」の設置は経営者不在の今日にあっては、当然の帰結だ。
以上

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