商工経済新聞社 Home 機械新聞はこちら 管材新聞はこちら
クリックで警世警語INDEXへ
INDEX
2013年4月6日
人的資本蓄積に不可欠な長期雇用。安易なコスト削減をもたらした派遣自由化
安倍政権の下でスタートした産業競争力会議で、「労働市場の流動化」が大きなテーマになっている。働く人が会社を移り易くし、衰退産業から成長産業に人をスムーズに移動できるようにしたい、とのことであるが、実は、正規社員を自由に解雇し易くしたい、と云う本音が見える。3月15日の産業競争力会議で「解雇自由の原則」を法律に明記すべき、との提案も出た。出席者の中に、小泉政権下で大臣に登用され、製造業への派遣社員の全面緩和を推進した竹中平蔵氏が選任されていることからして流れは明白だ。

2004年に施行された製造業への派遣自由化を機に非正規労働者は一気に増え、たちまち全雇用の3分の1を占め,今も尚、その増勢は止まらない。あの時も、新成長産業への人の移動を円滑にするため、と謳ったが、結果はどうであったか。低所得層が急速に増え、明日の生活さえ見えない人が続出した。結婚などは論外で、わが国懸案の人口減少に拍車がかかるばかりだ。一方、非正規労働者の大量出現で期待の新産業が芽生えたと云う話しは全くない。だが、今回も機を見るに敏なる竹中氏は、「日本の正規社員は世界で最も守られている、これを是正し公正競争の労働市場にしなくてはならない」、と云う。背景に、いつでも正規社員を解雇し易くしたい、との経済界の思惑がある。

諸悪の根元のように名指しされた正規社員であるが、一昔前は、社員と云えば正規社員(非正規社員は殆んどいなかった)であり、その役割と功績は極めて大きい。日本の製造業が日本を世界の経済大国に仕立てたのは、モノ造りの現場に、誰に指示されるのではなく、自ら問題を発見し、自ら改善策を考え、迅速に問題解決を図り、トラブルには柔軟に対応する社員で構築された組織があったからだ。そこには、長期雇用により人的資本として培われた社員の企業への帰属意識と一体感が漲り、チームワークで新製品や生産方案の開発を進める仕組みがしっかりと根付いていた。1970年代のオイル・ショックを克服するために創出された省エネ技術は、この組織の現場力があったからこそ可能だった。世界市場を制覇した高品質・低価格製品は、この組織だからこそ生み出された。

その「長期雇用」を崩したのは、バブル崩壊後の1994年2月に開催された経済界の舞浜会議だ。バブル崩壊で過剰債務、過剰設備、過剰雇用の3過剰苦に陥った経営陣が、時あたかもグローバル化の波に乗って渡来した市場原理主義に飛びつき、「企業に雇用責任はない」、として雇用責任を放擲し、これまで定着していた長期雇用を投げ出した。たちまちリストラが燎原の火の如く全国に広がった。

以来、20年、日本はデフレの中にある。企業の成長なくして日本経済の成長はあり得ないわけだが、3過剰苦が2003年に解消されても、経営者に企業を成長させる気概がなくなったのだ。2004年の製造業への派遣自由化で、企業は正規社員を超低賃金の非正規労働者に切り替えるだけで、いとも簡単にコスト削減が実現し利益を出せるようになった。わざわざ、リスクの高い開発や設備投資を行わなくても、配当に必要な利益ぐらいは容易に出せる。気概なき経営者が生き残る所以だ。

だが、しかし、それ故にその代償に、年々企業の現場力が衰え、企業本来の経営力は確実に萎えている。今回の産業競争力会議で正規社員を解雇し易くすれば、企業の目先の利益は出し易くなるが、これでは、日本の製造企業は世界に誇った現場力を決定的に失う。

どんなに非正規労働者が増えても、その非正規労働者にどれだけ人的資本が蓄積されるか、それは実績が示すように、「NO」だ。限られた短い期間に単純作業を繰り返すだけでは、高度なスキルや技術を習得することは到底できない。低コストを武器とする新興国企業の追い上げを凌ぐには,製造の高度化を図らなくてはならず、働き手は数多くの質の高い人材の確保が絶対不可欠だ。そのためには、企業が正規社員を長期に雇用するなかで、技能育成、技術育成を通じて人的資本を蓄積するしかない。正規社員の雇用は人件費を固定化するが、そのリスクを負ってこそ初めて、企業の存続に必要なイノベーションが可能になり、設備投資による企業の成長が実践されるのだ。

そもそも企業は事業の新陳代謝を常に行い成長を持続しなければ淘汰される。企業は、自ずと衰退事業から成長事業への人的資本の移動を効率的に行うものだ。国は、企業の長期雇用を支える環境をつくることである。製造業への派遣自由化が、企業を弱体化させ、深刻な社会問題を発生させた。産業競争力会議は、心してこの轍を踏んではならない。
以上

発行所 株式会社商工経済新聞社
・大阪本社:〒550-0005  大阪市西区西本町1-10-7 Tel:06-6531-6161 Fax:06-6531-6090
・東京本社:〒104-0032 東京都中央区八丁堀3-28-15 Tel:03-3553-9161 Fax:03-3552-6549
・中部支局:〒450-0002 名古屋市中村区名駅2-40-14大一ビル Tel:052-562-0477 Fax:052-586-4535
このサイトに記載されている記事・写真の無断転載を禁じます。サイトの著作権は商工経済新聞社に帰属します。