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2013年3月8日
経営者刷新なしにデフレ脱出なし。賃下げしかない国際競争力
デフレ脱出を的に放たれたアベノミクスは、目下のところ為替相場を大きく動かし、ドル円レートは衆議院解散前の2012年11月14日の1ドル=79円から2013年3月8日の1ドル=95円へ20%の円安となった。この円安は株式市場を活発化させ、同期間内に日経平均株価は11月14日の8664円から3月8日終値で42%アップの1万2283円62銭をつけ、リーマン・ショック直前の2008年9月12日終値(1万2214円76銭)を4年半ぶりに上回った。

円安により、日本企業の外貨建て輸出の採算は好転し、自動車メーカーでは、今3月期営業利益は、トヨタ1000億円、マツダ200億円の上方修正が発表された。また、企業が保有するドル建て預金や貸付金などの資産は決算期末の為替レートで時価評価され、円安による為替差益が生まれる。任天堂は12月末で26億ドルのドル建て現預金を保有し、円安で222億円の為替差益が発生する。そのため本業の営業利益が赤字であったが、為替差益の発生で経常損益は黒字に転じた。さらに、海外子会社の資産(自己資本)も円安で膨らむ。この効果の大きいのは商社だ。三井物産など大手5社の自己資本はわずか3ヵ月で約1兆円改善した。

ことほど左様に円安は輸出企業を潤すが、日本経済全体から見ればそうではない。円安が日本経済を潤したのは、輸出額が輸入額を大幅に上回った時代の話だ。2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに、日本は赤字貿易国に転落した。原発54基のうち52基を運転停止とし、その代替の火力発電稼動に必要な天然ガスや原油の膨大な輸入を余儀なくされたのだ。財務省の統計によれば、2012年の輸出額は64兆円で、このうちドル建て60%であるから、円安20%による収益増分は、約7.7兆円(64兆円×60%×20%)である。一方、輸入額は70兆円、このうち外貨建てが78%であるので、円安20%による費用増分は、10.9兆円(70兆円×78%×20%)となり、日本の富は、差し引き3.2兆円の海外流出が増え、国内総生産(GDP)の減少となる。円安は、赤字貿易となった2011年以降マイナスに働く。

あのメイド・イン・ジャパンが世界を制覇し、世界最強の輸出力を誇った日本の製造業はどこへ消えたのか。2000年代に入り今日に至るまで、リーマン・ショック発生前のドル円レートが115円の円安の時も、リーマン・ショック後の円高の時も、いずれの時も、新興国台頭によって輸入物価指数は上昇する一方であるのに、輸出物価指数は低迷するばかりで交易条件は悪化した。つまり21世紀になって、円安・円高にかかわらず、燃料・原材料を輸入し機械製品を輸出する貿易構造の下で、製造業は国際競争力を失い、資源価格の上昇分を輸出価格に転嫁できなくなったのだ。

しかるに、資源価格を輸出価格に転嫁出来ないのに、何ゆえ製造業は株主配当に必要な収益を出し得て来たのか。それは賃金を引き下げ、かつ雇用を正規社員から非正規雇用に切り替え人件費を大幅に削減して来たことによるのだ。1997年以降、賃金は一貫して年々切り下がった。「企業は人なり」と云うが、人を蔑ろにし、人的資源を切り捨てるようでは、まともな経営ができる筈もない。製品の開発も生産技術の開発もできなくなれば、海外新興企業との価格競争に勝てるわけがない。ひたすら人件費を削り、益出しに邁進してきたのである。

英フィナンシャル・タイムズ紙は喝破する。日本の産業界は、円高・ウオン安を最大の問題と言うが、円安が大幅に進んだとしても、世界の消費者はサムスン製品からソニーや東芝の製品に乗り換えようとはしないだろう。問題は通貨でなく競争力のない製品にあるのだ、と。事実、このほどシャープは天敵サムスンの軍門に降った。

一昔前、国を牽引してきた財界は、今ではわが身しか眼中にない小経営者の貧相な寄り合いと化し、国に対し円高などの6重苦を哀訴し、本来やるべき企業成長のための事業構造の刷新をして来なかった。唯一実施して来た人件費切り下げが、国民の購買力を削ぎ、長期デフレの元凶となったことすら彼らは分かろうとしない。これを国賊と言わずして何と言えようか。

昨年11月以来の円安でガソリン価格が上がり、小麦が上がり、電気料金が上がった。輸入依存度の高い食糧も次々と上り出す。物価が上がるのに国民の所得が上がらなければ家計は苦しくなる。安倍首相はデフレ脱出のためには、従業員の賃金引上げが不可欠だと、しきりに経営者に訴えるが、冷ややかだ。決まって彼らは、「生産性が上がらなければ・・・」と言うが、生産性を上げるための投資などやる気は毛頭もない。頭にあるのは、人件費削減による延命だ。

株主は、目先のROE(株主資本利益率)だけでなく、中長期の持続的な企業成長を経営責任に課し、早急に経営者の新陳代謝を図らなくては、早晩、元も子も失うことになろう。
以上

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