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2013年1月18日
円安を加速する経常収支悪化。顕在化したROE呪縛の経営弊害
円安への転機は、昨年10月に東京で行われた、「国際通貨基金・世界銀行年次総会(IMF・世銀総会)」にある。各国の財務相と中央銀行総裁のほか、金融関係者ら民間人も集まり、約200の会議が開催され、公式参加者は1万人であるが、非公式を含めると2万人とされる。毎年秋にIMFと世銀が合同で開くもので、日本での開催は1964年以来48年ぶり2度目だ。ヘッジファンドなどの海外投資家も多数出席し、彼らは貿易赤字の構造など日本のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に直に接し、円安・円売りへの地穀変動を察知した。

ドル円レートは、IMF・世銀総会閉幕直後の10月15日終値の1ドル=78円57銭は、10日後の25日に80円26銭と円安になり、衆議院解散直前の11月15日に81円17銭とドル高円安の傾向を深めた。その後、この流れは加速し、衆議院選・自民党圧勝直後の12月17日に83円58銭、安倍政権誕生の26日に85円62銭、年末31日に86円75銭、今年1月15日に88円83銭、18日に90円02銭とドル高円安が一気に進み、安倍首相が日銀を恫喝することでうまく円安効果を呼び込んだと云う見かたもあるわけだが、その実は、そのような甘いものでなく、為替市場が冷徹に日本の国力低下を映し出したに過ぎない。円安ムードを束の間お祭り騒ぎしデフレの鬱憤晴らしをしたい気持ちは分かるが、浮かれる場合ではない。

もとより、ドル円相場のトレンドを決めるのは、所詮、米国の景気と金融政策だ。オバマ大統領は、2009年に就任するや否や、リーマン・ショック後の米国経済を立て直し、雇用増大を図るため超金融緩和によるドル安政策に徹した。以降、ドル安円高が急進し、就任前の2008年に1ドル=103円36銭であったドル円レートが、一時は1ドル=70円割れが目前に迫った。その米国は、米国全土に100年分は埋蔵されるとするシェールガス革命が経済を押し上げ、失業率は低下し、個人消費も堅調になった。最大の懸案であった住宅市場も回復し、サブプライムローンによる金融バブル崩壊の悪影響は和らぎ、家計債務の対可処分所得比率はほぼバブル以前の水準に戻った。

現下のドル高円安の動きは、明らかに米国景気の立ち直りによるものであるが、一方で厳しい日本経済の実態が冒頭の海外投資家らに知れ渡るにつれて広がった、「円」見直しの動きを看過してはならない。日本は、2011年3月の東日本大震災で発生した原発事故後、原発54基のうち52基が休止。その代替に火力発電をフル稼働する状況にあるが、燃料となる天然ガスや原油の輸入額は巨額に達し、それ故に貿易収支が31年ぶりの赤字転落となった2011年に引続き、2012年も32年ぶりに過去最大の貿易赤字を記録する見通しだ。

巨額の貿易収支赤字が定着すれば、早晩、日本が世界最大の債権国として稼ぎ出す所得収支の黒字を食い潰し、一国の対外的な経済力を示す経常収支を崩壊しかねない。ちなみに、2012年度上期(4〜9月)の貿易収支は2兆6191億円の赤字となり、前年同期比で赤字幅は1兆3895億円拡大した。また、経常収支は2兆7214億円の黒字となったが、前年同期比で1兆9164億円も縮小(黒字幅41.3%縮小)した。経常収支黒字幅の減少は4期連続となり、この経常収支の悪化が円安要因として作用し始めたのだ。

しかるに、財界トップは、1ドル=80円台ではとても円安とは云えない、製造業はせめて110円ぐらいにならなければ、と宣う。だが、しかし、である。経営者は株主におもねるため目先の株主資本利益率(ROE)の向上しか眼中になく、中長期視点に立つ開発投資や設備投資に消極的で、人材投資に至っては、労働コスト削減の観点から正規雇用を非正規雇用に切り替え、人的資源は劣化するばかりだ。1ドル=110円になったとしても、このようなヨレヨレの体制では、技術のキャッチアップに旺盛で、最新鋭の設備を導入しエネルギッシュにモノ造りに励む新興国企業との価格競争に容易に勝てるとはとても思えない。むしろ、円安によって輸入資源の単価が高騰し、その価格転嫁ができなければ、更なる人員削減や賃金カットに走る企業が続出する。このような状況の中で、たとえインフレ・ターゲット2%が実現し、企業の売上高が名目で増えても、物価上昇に見合う賃金が上がらなくては、物価だけが上昇し、家計の実質購買力は低下し、暮らしは一層苦しくなるだけだ。

しかしながら、日本を活気づかせるのは企業しかない。海外勢に圧倒的優位に立つ技術力、システム力、発想力が必要だ。それには、これまでの殻を破る活力が不可欠だ。だが、何より必要なのは、株主重視のROEに呪縛された経営者の覚醒と意識改革だ。安倍首相が頑張っても、経営者が変わらなければ、日本がデフレスパイラルから逃れることはない。
以上

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