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2012年9月7日
栄枯盛衰、シャープが招いた危機。あいも変わらず担保にすがる銀行
経営再建に取り組むシャープの資金繰りが、不透明感を深めている。シャープは、米格付け会社・スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)による長期格付けの引き下げ、さらに追い落とすように大手格付け会社・ムーディーズ・ジャパンによる短期格付けの引き下げにより、市場での資金調達は困難となり、銀行融資に頼らざるを得ないが、追加融資の条件となる台湾・鴻海精密工業との出資見直し協議が遅れ、シャープの先行きに暗雲が垂れ込む。

何ゆえ、液晶テレビの代名詞にもなった「亀山モデル」で、一世を風靡したシャープが、急速に電子機器の受託製造で世界最大手に台頭した新興企業との提携に活路を見出さなくてはならないのか。「21世紀には、ブラウン管を全て液晶テレビに置き換える」、と宣言したシャープは、経営資源を液晶分野に集中させた。平成16年、三重県亀山工場を立ち上げ、日本の「亀山モデル」の液晶テレビは、最先端技術の象徴として爆発的に売れ、平成19年度は過去最高益となる1019億円の純利益を叩き出した。さらに平成21年10月、4300億円の巨額の資金を投じた堺の新鋭工場で、「第10世代」と呼ばれる世界最大級のガラス基板を使った液晶パネルの生産を開始した。

しかし、その栄華はあまりにも儚いものであった。平成24年3月期決算は一転して3760億円の巨額の欠損を余儀なくされ、今平成24年9月期決算でも、2100億円の欠損が見込まれる。かっては、最先端技術と云われた薄型テレビは、部品さえ集めれば誰でも品質の良い製品をつくれる時代になった。心臓部の液晶パネルも製造装置を購入すれば簡単に生産が可能だ。韓国勢や台湾勢の台頭を許した所以だが、差別化がしづらくなり価格が一気に下落した。シャープはその液晶分野に経営資源を集中させた結果が裏目となり、経営基盤を揺るがすまで事態が悪化した。

一代で、鴻海精密工業を育て上げた郭台銘会長は地元では、急速に領土を拡大したモンゴル帝国と重ねられ、「現代のチンギスハン」と呼ばれる。シャープ、鴻海の両社は、3月27日、鴻海がシャープの第3者割当増資を引き受け、発行済み株式の9.9%分を1株550円で来年3月までに取得することで合意した。ところがシャープ株はその後3分の1に下落したため、出資条件の見直しを鴻海はシャープに迫り、一方的に合意したと発表した。しかし、鴻海の真意は、金銭的な問題だけではなく、追い込んだシャープを前に、シャープが長年心血を注いで育んできた世界水準の液晶技術の奪取にある。

案の定、シャープが、鴻海からモバイル端末向けの中小型液晶パネルの生産を設計段階から関与させるよう求められていることが判明した。中小型液晶技術は、今後のシャープ再建の柱となる分野であり、技術流出は避けなくてはならない。安易にシャープが同意するとは考えられないが、これがネックで資金繰りに目途がつかないとなれば、ことは問題だ。いくら優秀な技術を持っていても、資金繰りがつかなければどうにもならない。問題の鴻海の出資額は数百億円に過ぎないが、会社再建には巨額の銀行支援が不可欠だ。

シャープはこれまで、社債やコマーシャルペーパーなどを発行し、市場から直接資金を調達してきた。銀行から融資を受ける場合も信用力で行い、担保を差し入れることはなかった。だが、しかし、シャープと鴻海の出資見直しが表面化するや否や、国内大手銀行はシャープ本社や亀山工場に抵当権を設定した。国内大手電機メーカーが本社や主力工場を担保に融資を受けるのは異例のことだ。シャープは9月に追加の融資を受けなくてはならないが、銀行は、新たに設定する担保物件はなく、これ以上は黒字転換するための事業計画が必要、と突き放す。原因は、経営判断を過ったシャープ経営陣にあり、その責任は厳しく問われることは免れない。

しかし、それにしてみても、銀行の担保設定とは、なんと懐かしい風景ではないか。1990年代初頭に、野放図な担保設定でバブル崩壊を招いた銀行の所業に対する反省が全くない。壊滅した銀行の公的機能を重んじて、公的資金を投入してまで銀行再生を図ったのは、銀行が債務者の置かれている環境に洞察力を持ち、預金者から預ったお金を投入して価値を生むかどうか判断し、債務者より広い視野を持ち、個々の事業者では判断のつかないリスクをとり、日本経済発展に寄与するためだ。高齢者から預かった巨額のお金を国債購入に充てるしか能のない銀行の実態は、日本経済に何の付加価値も生み出さない。

今回のシャープが見せた経営危機は、モノ造りの技術開発に邁進してきた日本企業に多発するケースだ。銀行は親身になって事業者と共にリスクを担う覚悟が、今こそ求められる。
以上

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