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2012年7月15日
コア技術、小企業に健在なり。間抜けな人気企業ランキング
ロンドンオリンピックは、7月27日に無事開幕と相成ったが、開催前にロンドン市など当局を大いに悩ませる事案があった。それは偽1ポンド硬貨であった。小粒で分厚い銀色のニッケル合金で出来た硬貨の偽物が大量に出回りつつあり、多数の外国人とともに多数の偽物硬貨の流入が懸念された。自動発売機に依存する地下鉄などの公共交通機関にとっては、まさに死活問題だ。

ロンドン市は、コイン選別機を主力製品とするドイツの大企業に相談を持ちかけた。しかし、彼らにも技術的な解決策が見つからず、悩みぬいた末に思いついたのは日本の小さな会社の旭精工( 本社・東京)であった。同社は、わずか2週間で技術的な解を提案してきた。その速さとコイン選別の性能の良さが、ドイツ企業を圧倒した。

お陰で心配されたイギリスの交通機関は難を免れたが、このような無二のコア技術を有する中小企業は日本に無数ある。手術用縫合針メーカーのマニー、給排水設備の設計開発のエブコ、歯科・産業用高速回転機器のナカニシ、自動車・半導体向けダイヤ工具の旭ダイヤモンド工業、等々枚挙に暇がない。国内で雇用を確保し、利益を稼ぎ納税の義務をきちんと果たし、一意専心と独立自尊を大事にする企業は、中小の規模に多い。

しかるに、2012年に大学生が選んだ就職人気ランキングは、相も変わらず大企業オンパレードだ。文系男子では、1位三菱商事、2位住友商事、3位三井物産、4位三菱東京UFG銀行、5位伊藤忠商事、6位東京海上日動火災保険、7位丸紅、8位三井住友銀行、9位みずほフィナンシャルグループ、10位三菱UFJ信託銀行、がトップ10だ。中身は商社が5社、金融機関が5社である。日本の強みである「モノ造り」のメーカーはゼロだ。資源開発や宇宙開発を担う商社の高い人気はまだしも、バブル崩壊の元凶となった金融機関への憧れの強さには戸惑わざるを得ない。何ゆえ、預金を集めても国債を買うしかビジネスモデルのない金融機関へ行きたいか。

理系男子では、1位東芝、2位日立製作所、3位三菱商事、4位ソニー、5位住友商事、6位パナソニック、7位NTTデータ、8位三井物産、9位JR東日本、10位伊藤忠商事、であ る。中身は、電機メーカー5社、商社4社、通信・運輸各1社、である。「モノ造り」に5社が上がっているが、何ゆえ、韓国勢や台湾勢、中国勢の後塵を拝した電機なのか。

要するに、現代の若者は安心安全の視点から規模が大きく知名度の高い企業を就職先に選ぶと云うことだ。確かに今日、巨大企業となったところは、創成期において、井深大や松下幸之助が持った企業家魂で漲っていた。失敗を厭わず、失敗を糧に次々と技術を開発し製品化し国内外の市場を我が物顔で押さえ企業規模を拡大した。だが、順風満帆がいつまでも続かないのは世の常。ソ連崩壊後のグローバリズム進展と新興国の台頭で、世界はG7時代からG20の時代に急変すると同時に、日本一人勝ちの世界地図は瓦解した。

当然、大企業はこの大変化に対応して対策を講じなくてはならないが、どこの経営者も、井深大や松下幸之助がなし遂げた功績や経営に対する情熱も持ち合わせていない。ひたすら失敗をしないように努めるだけだ。リストラや正社員の採用手控えなどで人件費を最大限切り詰めて蓄えた巨額の資金を持ちながら、新製品開発や新設備投資、新市場投資を実施しないまま、この20年間無為にして来た。大企業には優秀な人材がいるのだが、これでは際立つ動きは出来るはずもなく、業績に展望が開かれることもない。

このような問題のある大企業に学生が行きたがる世相こそ極めて危機的なことだ。大企業の経営者の無能・怠慢のために経営不振が続けば、企業もろとも人材まで大企業の中で腐ってしまう。その上、あまりにも巨艦となってしまったため、激変する企業環境に順応しがたく、鈍重のリスクだけが高まりかねない。経営者に決断の力が全くないだけに事態は深刻だ。大企業は学生が思うほど安心安全では、決してない。

むしろ、冒頭の小企業のように、独自の技術を軸に、環境に柔軟に適応できる小さな企業でこそ、若手が腕を奮い自らの手で将来を切り拓くことができ、衰退が懸念される大企業に成り代わって新産業の創出に繋がるのである。

就職人気企業ランキングにみられる学生の未熟な判断力が国の先行きを誤らせる。学生の眼力を鍛え上げる教育体制が必要だ。まさに、この国にこの学生あり、とは云うが、国も学生も変わらなくては、本当に、この国は潰れてしまうぞ。
以上

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