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2012年6月15日
ドイツ病を治癒した「アジェンダ2010」 日本病を発生させた日本の統治者
ユーロ体制を瓦解しかねないギリシャのやり直し選挙(一院制、定数300人)が、6月17日投開票され、「ユーロ残留」を掲げた中道右派・新民主主義党(ND)が第一党となり、「財政緊縮派」が「反緊縮派」を押さえて過半数を占めた。ND主導の政権が誕生し、欧州連合(EU)やIMFなどの監視下で緊縮策を追加して財政再建路線を推進することになれば、支援融資が受けられ、ユーロ脱退に追い込まれ国の財政が破綻することはひとまず回避された。ギリシャに終始厳しいスタンスをとったドイツも、ギリシャをEUの一員として支え続ける、とNDの勝利を歓迎した。

観光資源のほかに優れた産業がないギリシャに豊かな国富があるわけがないのに、ユーロ
圏に加盟することでユーロによる国債を乱発し、国民の4人に1人が非生産者の公務員で、その給料は民間企業の1.5倍、定年退職後の年金が現役時代とほぼ変わらない、と云う役人天国を賄っていたのであるから、返済見込みのないギリシャ国債の尻拭いを強いられる国々が怒るのは当り前である。ことに、質実剛健で知られるドイツ国民が口角泡を飛ばし、何故我々が汗水かいて稼いだカネが怠け者のために使われなくてならないのか、とギリシャ支援に大反対するのも尤もな話しだ。

1990年の東西ドイツ統一に要した膨大なコストで経済低迷を余儀なくされたドイツは長らく、「欧州の大病人」と揶揄され、「マルク高」、「構造不況」、「経常収支赤字化」、「投資の海外流出による空洞化」など、まるで今日の日本がおかれている状況にあり、高い失業率に悩まされていた。そのドイツは、いまや,リーマンショック後の失速する世界経済の中で、2011年の国内総生産 (GDP)成長率は3%を達成し、日本▲0.7%、米国1.7%、フランス1.7%、英国0.7%をはるかに凌ぎ、また、失業率は2005年11.21%が2011年5.9%と大幅に改善された。ちなみに日本は同4.43%から4.6%へ、フランスが同9.29%から9.7%へと微増し、英国は同年4.8%から8.0%に跳ね上がった。

金融危機に揺れ動くEUの中心にありながら、ドイツの1人あたりGDPはここ10年で先進七ヵ国のどの国より上昇した。10年前までは、「欧州の大病人」と厄介者扱いされたドイツが、何ゆえ、大きく変身し得たのか。それには、ユーロ安による輸出伸張を強調する向きもあるが、しかし、ユーロ安はギリシャ問題が顕在化した2010年以降であり、それまでは逆に日本のEU向け輸出は「円安・ユーロ高」を享受したわけで、ドイツがユーロ安で復活したわけではない。

悪しき「ドイツ病」を荒治療し、ドイツを変えたのはシュレーダー首相の英断だった。2002年10月に成立した第2次シュレーダー政権は、当時400万人を超す失業者の削減を最大課題に掲げ、2003年3月、社会保障改革、税制改革、労働市場改革を柱とする「アジェンダ2010」を打ち出した。際立つのは、労働市場改革のため、フォルクスワーゲンの労務担当重役のハルツ氏を座長とする「ハルツ委員会」を立ち上げ、雇用の阻害要因を抉り出し、対処策を講じたことだ。それまでのドイツは、社会保障費の企業負担が大きい上に解雇が難しいために新規雇用が極端に抑制されていた。

ハルツ委員会の改革により、失業手当給付期間の短縮化、中小企業の期限付き雇用の承認、失業手当水準の生活保護水準への引き下げ、求職者登録と就職斡旋制度の整備などが実施され、これまで労働者保護に傾斜していたドイツの労働慣習が大きく見直された。その結果、雇用コストは抑制され、企業の投資、収益力は改善され、そしてそれが雇用安定に繋がり、失業率低下、所得向上の好循環を通じて内需拡大に結びついた。就労主義を徹底した結果、財政は健全化し、2011年の財政赤字のGDP比率は1%とユーロ圏基準3%をクリアした。

翻って、日本。財政赤字はGDPの2倍、かつ公務員改革は遅々として進まず、ギリシャ以上の重症にあるが、日本を支援するところはない。消費税と社会保障の一体改革すらすんなり行かず、まして、労働市場は「同一職種同一賃金」の理念さえ見えず、正規雇用者と非正規雇用者の格差問題は放任のまま、また、今まさに産業構造が激しく変わり、企業淘汰が急速に進む日本において求められる労働力の流動性促進の諸策は一切ない。挙句の果てに、働いても生活保護と同じ収入なら生活保護を受けた方が得策とする若者が生まれた。

統治者に日本の伝統ある勤労精神さえ若者に伝える使命感も能力もなく「ドイツ病」ならぬ「日本病」を蔓延させて、モノ造り2強、日独のガチンコ勝負にどうして勝てようか。
以上

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