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2012年5月31日
加工輸出立国を直撃する技術平準化。急がれる無形付加価値開発
21世紀に入って僅か10数年しか経たないのに、20世紀後半に世界を制覇した日本のエレクトロニクス製品は競争力を失った。上場企業の2012年3月期決算で、パナソニック、ソニー、シャープの大手家電3社はいずれも大赤字に陥り、3社合計の赤字は1.6兆円に達した。デジタル技術の発展により、薄型液晶テレビなどは半導体や液晶パネルなどのデジタル部品を購入すれば誰でも品質の高い製品をつくることが出来る。技術の差別化はなり難く、価格勝負の世界になってしまった。今日では、労働コストの安い韓国、台湾、中国に完全にキャッチアップされ、家電メーカーは生産を撤退し、新興国企業から供給を受ける構図となった。

また、家電とともに日本経済の2本柱として国を支えてきた自動車業界の変貌も物凄い。20世紀では誰も予想できなかったが、今では世界の自動車の6割が中国やインド、ブラジルなどの新興国で生産される。しかも、技術蓄積が必要なコア部品のエンジンや変速機のほか、タイヤ、ホイール、内外装部品などの部品大手が何社も輩出し、世界の部品メーカーのトップ100社にも名前を連ねるところも出現した。これら新興部品メーカーは、技術の吸収に貪欲で、2008年9月に生じたリーマンショックの煽りを受けて経営困難になった、金属加工部品やゴム・樹脂成型部品、電装部品などの企業を買収し、高度な技術や有名ブランドを獲得すべく,活発にM&Aを進めている。

このような世界における技術の平準化が進展するなかで、新興国は力強い成長を見せている。IMF(国際通貨基金)の見通しによると、新興国のGDP(国内総生産)が、2013年にも先進国のGDPを初めて追い抜く見込みだ。20世紀最後の2000年には新興国の1.7倍あった先進国のGDPは、リーマンショック後の停滞によりその差を縮める動きとなり、2013年に逆転を経て2017年には、新興国の9割程度になると見られている。こうした動きは、新興国が先進国に代わって世界経済の中心的な役割を果たすとともに、消費市場としての存在感を高めるのは必至だ。ちなみに、新興国の中でも世界経済を牽引すると見られるのは、ブラジル、ロシア、インド、中国のBRICs諸国に加えて、メキシコ、韓国、インドネシア、トルコであり、これらの国々は「もはや新興市場ではない」とし、「グロース・マーケット(成長市場)」と名づけられている。

一方、これまで「加工輸出立国」の日本は2008年以降の輸出水準を急速に低下させ、2011年の貿易収支は31年ぶりに赤字に転落した。輸出水準が低下した背景に、円高による製造企業の海外移転が輸出に対してマイナスに作用したことを上げる向きが多いが、それより何より新興国企業が地力をつけたことであろう。貿易収支の赤字は、決して一過性のものでなく、このままでは製造業大国のイギリスや米国が辿った「加工輸出」凋落の轍を踏みかねない。

かって、欧米の先進国は、日本と云う途上国にキャッチアップされ、中級品、汎用品の市場から撤退を余儀なくされた。そして艱難辛苦の末、高級品市場を開発し、技術ブランドを確立した。世界で最高級の腕時計と云えば、誰でもスイス製を云う。1969年、日本のセイコーが初のクオーツ腕時計「アストロン」を発売し、機械式腕時計より桁違いの精度を実現し、かつ量産・低価格化に成功し、いわゆる「クオーツ革命」を引き起こし、スイスの時計産業に壊滅的な打撃を与えた。しかし、スイスは機械式腕時計に「ステータス性」と云う無形の付加価値、ブランドをつけることで見事に復活した。日本と同じように、破滅的なスイス・フラン高でありながら、中国の富裕層に超高価格の腕時計を大量に販売することに成功し、過去最高の売上げと極めて高い利益を得ている。ブランド力が強ければ、通貨高にめげず、ブランド重視の顧客は逃げずについてゆく。

世界のどの国・地域でも技術が益々均質化しつつある現在、日本は、もはや中級品や汎用品の製品については、どう転んでも新興国企業に価格競争で勝つことは出来ない。技術開発が大事なのは当然だが、それ以上に大事なのは無形の付加価値を製品につけることだ。日本には、世界中が共鳴する、安全、安心、健康、おもてなし、きめ細やかさの心がある。この心を製品に反映しブランドに昇華すれば、他の国がキャッチアップすることは出来ない。窮地にある日本に求められるのは、世界の富裕層を引きつける無形の付加価値、ブランドの開発力である。モノ造りの視点を変えなくてはならない。
以上

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