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2012年4月30日
モノ造り基盤崩壊、団塊世代退職。危機に瀕する技能伝承
2012年は、660万人に上る団塊世代(1947~49年生まれ)が、年金支給開始の65歳に到達し、労働市場から退出し始める。これにより労働力が急減することもさることながら、それより何より、熟練技能が断絶する懸念があり、 企業に「2012年問題」として浮上している。この指摘は、団塊世代が60歳の定年を迎える2007年にも、大量退職が及ぼす影響を「2007年問題」として取り上げられた。しかし、年金支給開始年齢が引きあげられることに伴って、2006年に改正高年齢者雇用安定法が施行され、事業者に対し、@定年引上げ、A継続雇用制度の導入、B定年廃止、のいずれかの実施を求め、また、事業者サイドも雇用延長や再雇用の形で応じた。その結果、団塊世代のほとんどは継続して働き、「2007年問題」は労働市場や企業に深刻な問題をもたらすことはなかった。

そもそも団塊世代が卒業した1960年代前半(中卒)~1970年代初め(大卒) は、機械産業が日本経済を牽引する高度成長期であり、多くの若い労働力を吸収した。そして、その後、長い年月をかけて磨き上げた熟練のスキルで、モノ造りの第一線を担ってきた団塊世代が、愈々2012年の本年、年金支給開始の65歳を機に悠々自適の年金生活に入るため、大量退職に踏み出す。

技能や技術が全てデジタル化され、素人でもカネさえあれば設備装置を購入し、たちまち市場に参入できるパソコンやテレビなどとは異なり、機械産業は、アナログ的な技能が重要で、ヒトの能力そのものに依存するところが大きい。その技能は、属人的である故に機械化や自動化がなし難く、ヒトを育てる以外に方策はない。あの頃は、若者を大量に採用し兄貴のような先輩達に面倒を見させ時間をかけて仕事を通じて経験を積ませば、何人かは熟練技能者に育てることが出来た。

今はどうか。企業に余剰人員を抱える余裕はなく、一方、若者の製造離れは深刻だ。また、バブル崩壊後の「失われた10年」の間、新規採用が抑制されたため中堅層が抜け落ち、高齢の熟練技能者と若者との世代間ギャップは甚だしく、双方のコミュニケーションが円滑に行かず、なかなか技能の伝達は困難のようだ。技能承継の重要さは昔から云われてきたが、良い処方箋はない。技能承継がうまく行かない理由は、熟練技能者の指導能力の不足と若者の能力不足によるとされ、教える側と教えられる側の両方に問題がある、と云う。

ドイツでは、マイスター制度が構築され、技能承継は企業の外部で行われる社会システムになっているのに対し、日本は、各企業がそれぞれのOJTで鍛え上げていく仕組みのため、企業に固有の技能が形成されてきた。そして企業は固有の技能向上に邁進し、日本のモノ造りを世界最高水準に押し上げた。デジタル技術で世界を極めた家電業界は、パナソニック、ソニー、シャープ,NECに見る如く、韓国、台湾の新興企業の後塵を拝し、今年3月期決算ではみな大赤字になったが、アナログ技能に根幹をおく機械産業は、工作機械業界のオークマ、牧野フライス製作所、東芝機械に見る如く、次々と増配を発表した。アナログゆえに新興企業のキャッチアップがなされ難く、優位性が維持された。

しかし、団塊世代の大量退職によって技能伝承が断絶され、その優位性が損なわれる危機に、機械産業は直面している。政府に成長戦略を声高に求める経営者が多いが、他力本願する前に、先ずおのれの足元のモノ造り基盤が崩れ落ちようとしている現実を正視し、技能承継断絶の危機を克服する方策を講じなくてはならない。もし経営者にその心構えがあれば、「2007年問題」が懸念された前年の2006年に実施された改正高年齢者雇用安定法の法規制への対応も、年金支給開始年齢までのつなぎの雇用として、仕方なく高齢者雇用に取り組むのではなく、長い勤続の中で蓄えられた貴重な知識、スキルなどの個人資産をもつ高齢熟練技能者に、高い志しをもって技能伝承の一翼を担わせ、やりがいを若手人材の育成に注がせたであろう。

人間は使命感をもって奮い立てば、不可能を可能にする力を発揮する。たとえ高齢熟練技能者に教える能力がなくても情熱さえあれば、いかに世代が違おうとも、未熟者を感化することが出来よう。厄介者扱いされて、どうして若者に技能伝承の気持ちが湧くものか。また、若者も聞く耳を持とうか。

今日、モノ造り・日本は、団塊世代の退職によって、培ってきた技能伝承断絶の危機に立たされ、その趨勢如何に国の存亡がかかる。政府、企業は全力を挙げて対処すべきだ。
以上

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