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2012年3月15日
奨学金、1万人滞納。現場力空洞化の製造企業
日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金制度で、返還滞納者が1万人以上に上ることが判明した。2010年度末時点で、123万1378人に総額1兆118億円を貸し出し、そのうち3ヵ月以上の滞納額は2660億円に達する。回収強化のため、2010年度より3ヵ月以上の滞納者の情報を信用情報機関に登録され出した。つまり、ブラックリストに載ると云うことだ。その情報は、金融機関や信販会社に提供される。1度ブラックリストに載ると、返済しても5年間残るため、住宅ローンなどの銀行借入れやクレジットカードの利用が制限される。さらに9ヵ月以上の滞納者には、機構は予告した上で奨学金返済の督促を裁判所に申し立てる、と云う。

中には、不心得者もいるだろうが、圧倒的に多いのは就職先がないからだ。貧しくても有為の若者に勉学の機会を与え、やがて彼らが社会に貢献することを願ってなされた奨学金制度が綻びを見せた。雇用者全体に占める非正規社員の比率は、ひと頃3人に1人( 33%)と云われたが、今では39%にハネ上がった。なかでも、若者の失業率は高く、かつ就職しても非正規社員化の進行が止まらない。これでは、結婚どころか自分が生きて行くために必要な年金や健康保険の保険料も払えず、まして奨学金の返済などできない状況が生まれるのは致し方のない流れではないか。青雲の志しを抱く若者を支援することを願って創られた奨学金制度が、何ゆえ、学窓を巣立つや否や、債務不履行者に落とし込み、社会の制裁を科すことになったのか。何かがおかしい、と誰もが思う。

いつから日本は、このような理不尽の国になったのか。それは1985年のプラザ合意にさかのぼらなくてはならない。それまで日本は、モノ造りで世界市場を制覇していた。ことに対日貿易赤字の甚だしい米国の思惑は執念深かかった。プラザ合意による円独歩高にもかかわらず、なかなか衰えない日本の輸出力を解体するため、引き続き行われた日米構造協議で、米国は日本に対し、国際競争力増強に繋がる産業分野への投資よりも、国内の需要喚起が必要であるとして,GDPの10%を公共事業に投資するよう要求し、海部内閣は10年間で430兆円の「公共投資基本計画」を策定し、その後、更なる上積みを求められ、村山内閣は「社会資本整備費」として200兆円を積み増し、総額投資計画は630兆円に達した。これが現在の財政難の原因を産み出したのは間違いない。しかし、一向に景気回復の兆しは見出せず、すでに20年たつのにデフレから抜け出せない。積上げられたのは、膨大なる国の借金だけだ。

一方、米国が恐れた日本の製造企業は軒並み、バブル崩壊による未曾有の不況のなかで、リストラを徹底し正規社員採用を控え、その後、海外向けの仕事が増えてもパートや派遣の非正規社員でやりくりするようになった。ことに、小泉政権下で実施された製造業に対する労働法制の規制緩和がこの流れを決定的にした。新興国の低賃金攻勢に立ち向かうにはコストダウンしかないと考えたのだろう。大手製造企業は、コスト削減とリスク回避の一色に染まり、賃金をけちり、開発や設備の積極的な投資を削った。結果、カネはあるが、体力は衰弱した。

円高の今日、日本の製造企業は競うように海外に生産拠点を移し、日本はどんどん空洞化しつつあるが、それより何より憂いなくてはならないのは、製造企業の現場そのものが空洞化したことだ。モノ造りを担った団塊世代の技術者や技能者が、次々と65歳年金完全受給者となり、引退を始めた。しかるに、長きに亘る正規社員の採用手控えのため開発や製造現場は、若手中堅層が薄く現場力が急速に衰退している。目先のコスト削減しか頭にない経営者には、人材の新陳代謝や開発、設備投資を敢行する考えも勇気もない。1社や2社ならまだしも、日本企業は皆、右へ習え、であるから壊滅の方向に、日本は一直線だ。

韓国に液晶テレビなどデジタル家電で破れ、この度は次世代テレビと云われるELテレビの商品開発化に敗北し、日本を代表する家電大手メーカの社長交代が相次ぎ、事業撤退や人員整理など暗い世相に追い討ちがかかる。翻るに、プラザ合意を転機とし、規格製品の大量生産・大量販売の経営モデルを、高付加価値製品・低コスト生産販売モデルに変えなくてはならなかった。物凄い知恵とエネルギーが必要だった。それには極めて層の厚い人材を根幹として、絶えざる開発とモノ造りの仕組みを変える投資が不可欠だった。奨学金制度は、その一翼を担う人材の育成を期するものであったが、有為の人材をくず者扱いする日本は、今後益々熾烈化する世界の経済競争に敗北するしかない。

あいも変わらず外交音痴・経済音痴の政治家、自分の保身しか考えない志しの低い経営者、ともに今なお健在で、日本の命運を決める地位にいる。日本の政治経済が迷走する所以である。
以上

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